1,独立生計要件とは何ですか?

 入管法は永住許可要件の1つとして、独立生計要件を定めています。独立生計要件とは、「独立の生活を営むに足りる資産又は技能を有すること」(入管法第22条第2項第2号)を意味します。すなわち、日常生活において公共の負担となっておらず、かつ、その有する資産又は技能等から見て将来において安定した生活が見込まれることが必要とされています。

 もっとも、入管法や入管庁の審査要領では、具体的に年収○○〇万円以上と規定されているわけではありません。実務上では、この独立生計要件をクリアするためには、外国人が一人暮らしをしている単身世帯の場合で、年収300万円以上が目安と考えられています。一方で、永住申請するためには原則10年以上日本に在留していることが要件となっているので、長期間日本で生活している外国人が永住申請します。したがって、永住申請する外国人は、日本で結婚し家族と共に生活している場合が少なくありません。この場合は、同居する家族の収入も独立生計要件の判断に考慮されることになります。もっとも、同居の家族の収入がアルバイト収入の場合は、世帯年収に考慮することはできません。

2,独立生計要件の判断基準となる資料は何ですか?

(1)課税証明書記載の年収額

 この独立生計要件を充足しているか否かの判断は、市区町村が発行する課税証明書によって判断されます。課税証明書には、当該年度の年収額が記載されています。よって、課税証明書は永住申請の必要書類の1つになります。この課税証明書は、一般の永住申請の場合は直近5年分を提出する必要があります。そして、課税証明書に記載されている年収額が300万円を超えている場合は、独立生計要件を充足できる可能性があります。他方で、課税証明書記載の年収額が300万円を下回る場合は、独立生計要件を充足することができず、永住申請しても不許可となる可能性が大きくなります。

(2)課税証明書の提出が必要な年数

 課税証明書は、一般の永住申請の場合は原則として直近5年分を提出する必要があります。そして、この直近5年分の課税証明書の全てが、年収300万円を超えている必要があります。また、日本人の配偶者なども身分を有する場合は、直近3年又は1年分に緩和されます。この場合も、直近3年又は1年の年収額が300万円を上回っている必要があります。

①一般の永住申請直近5年分
②日本人の配偶者、永住者の配偶者、特別永住者の配偶者の永住申請直近3年分
③日本人の実子(特別養子縁組を含む)、永住者の実子、特別永住者の実子の永住申請直近1年分
④「高度人材外国人」の永住申請・高度人材ポイント計算で80点以上ある場合は直近1年分
・70点以上の場合は直近3年分

3,年収300万円以下で独立生計要件をクリアできる場合はありますか?

 独立生計要件は世帯年収を基準に判断されます。よって、配偶者や成人した子供が十分な収入を得ている場合は、必ずしも申請人本人に独立生計要件が備わっている必要はありません。配偶者や同居の家族の年収も、独立生計に必要な年収に考慮することができます。この場合は、配偶者などの課税証明書を提出することが必要となります。しかし、資格外活動で得た収入やアルバイトで得た収入の場合は、独立生計要件の判断の基準となる年収に考慮することはできません。

 したがって、申請人本人が年収300万円以下の場合でも、同居の配偶者や親族の年収を考慮し世帯年収として十分な収入を得ている場合は、独立生計要件を充足することができます。なお、生計要件をクリアするために必要な年収300万円以上は、単身者を基準とした金額になります。配偶者や子供その他の親族を扶養している場合は、独立生計要件をクリアするために必要な年収は高くなります。入管が公表しているわけではありませんが、実務上は扶養者1人が増えるにつき最低でも20万円から30万円をプラスした年収を得ている必要があると考えられています。

4,現在の年収が高くても、5年間毎年、年収300万円以上が必要ですか?

 転職等によって年収が増加し、現在年収700万円以上の収入を得ていたとしても、課税証明書を提出する直近5年間のうち、1年でも年収300万円以下だった場合は、永住申請が許可される可能性は低くなります。生計要件をクリアするためには、安定継続的に十分な収入を得ている必要があります。収入が不安定な場合は、現在の年収が高くても、許可の可能性が低くなります。課税証明書を提出する直近5年間は、毎年年収300万円以上の収入を得ている必要があります。5年間の平均で年収300万円を超えている場合でも、そのうち1年でも年収300万円を下回る場合は、独立生計要件をクリアすることが難しくなります。

5,前年度の課税証明書が取得できない場合はどうすれば良いですか?

(1)源泉徴収票の提出

  課税証明書は当該年の1月から12月までの収入金額が記載されますが、課税証明書が発行されるのは、だいたい翌年の5月頃になります。したがって、1月から4月までは前年の課税証明書を取得することはできません。

 そこで、5月になるまでは課税証明書を取得できないため、永住申請することはできないのか?ということが問題となります。この場合に提出することになるのが源泉徴収票です。源泉徴収票は年末に勤務する会社から発行されます。そして源泉徴収票には、その年の収入の金額が記載されています。副収入を得て確定申告などをしていない限り、源泉徴収票と課税証明書に記載されている年収額は一致します。よって、5月以前に永住申請を希望する場合には、課税証明書の発行を待たずして永住申請するために、課税証明書に代えて前年の源泉徴収票を提出することになります。

(2)後から課税証明書の提出は不可欠

源泉徴収票の提出は課税証明書を取得できない時期の申請の際の代替措置にすぎません。あくまでも、永住申請の必須書類は課税証明書です。したがって、申請後、5月を過ぎれば課税証明書を取得できるので、直近の課税証明書の取得が可能となったら課税証明書を取得して入管に提出することになります。また、源泉徴収票を課税証明書の代替として利用できるのは、5月以前は課税証明書を取得できないため代替するので、直近1年のみとなります。したがって、それ以前の年度は課税証明書を取得できるので、課税証明書を提出する必要があります。すべての年度を源泉徴収票で代替することはできません。

(3)源泉徴収票に法人印の押印

 源泉徴収票は簡単に偽造することができます。したがって、提出する源泉徴収票が真正な書類であるとの信用を得る必要があります。そのため、提出する源泉徴収票には、可能な限り勤務先の法人印の押印を得るようにすることが、好ましいと考えます。近年では、源泉徴収票を紙で渡されるという会社は減ってきています。源泉徴収票を電子的記録で交付されている場合は、パソコンで印刷して提出してください。この場合も、印刷した源泉徴収票に法人印の押印を得る必要があることは同じです。

「記事監修」
加納行政書士事務所
運営HP:ビザ申請サポートNavi https://visasupportnavi.net/  

代表
特定行政書士 加納 裕之  
「学歴」
 同志社大学大学院法学研究科公法学専攻博士前期課程修了(修士(法学))
 明治大学法科大学院修了
「資格」
 行政書士(特定付記)、TOEIC805点
「専門分野」
 入管取次・ビザ申請、在留資格、永住・帰化、外国人問題、国際公法