特定技能2025年改正|企業と外国人が知るべき重要ポイントまとめ
目次
はじめに
日本における 特定技能制度 は、深刻化する人手不足を背景に、外国人労働者の受け入れを促進する重要な枠組みです。2025年4月1日から実施された制度改正は、受け入れ企業、登録支援機関、そして地方自治体にとって大きな転換点となります。
本記事では、2025年改正の背景・目的から、具体的な改正ポイント、企業・外国人双方への影響、実務対応の留意点を詳しく解説します。さらに、よくあるQ&Aも掲載。制度を正しく理解し、実務上のリスクを低減しながら戦略的に外国人材を活用したい方に向けたガイドです。
1. 背景と改正の目的
まずは、なぜ2025年に特定技能制度の改正が行われたのか、その背景と目的を整理しておきましょう。
- 人手不足の深刻化
日本国内では少子高齢化が進み、多くの業界で労働力不足が深刻です。特に介護、外食、製造といった分野では、特定技能外国人への期待が高まっていました。 - 共生社会の実現
単に労働力を補うだけではなく、地域社会との共生を図る必要があります。特定技能所属機関(受け入れ企業)に対して、地方自治体との連携強化など責務を明確にする改正が求められていました。 - 支援事務の効率化・負担軽減
現在の制度運用では、登録支援機関や所属機関に対する届出・報告業務の頻度が高く、運用負担が大きいという指摘がありました。これを是正する目的で、届出様式の簡素化や頻度の軽減が図られています。 - 制度の柔軟性向上
既存制度の “硬さ” を緩和し、柔軟な働き方・支援対応を可能にするため、省令・運用要領を改正。特定技能の在留資格運用方針自体が見直されました。 - 新制度との整合性
並行して議論されている「育成就労制度(2027年導入予定)」との整合性確保も重要なテーマとなっています。
こうした背景を踏まえ、政府(出入国在留管理庁など)は 2025年3月11日付で 特定技能の分野別運用方針の改正 を閣議決定しました。
2. 2025年改正の主なポイント
次に、2025年4月1日施行の制度改正の具体的な内容を整理します。特に注目すべきポイントは以下の通りです。
2.1 分野別運用方針の改正(3分野)
2025年3月11日の閣議決定により、以下 3つの分野(介護、工業製品製造業、外食業)に関して運用方針が見直されました。
- 介護分野
- 訪問介護業務への従事が特定技能外国人にも可能に。改正前は在宅(訪問)系の介護は対象外でした。
- 従事するには以下の要件等が必要:
- 介護職員初任者研修等の修了
- 介護事業所などでの実務経験(例:1年以上)
- 訪問介護の基本的な研修受講
- 責任者の同行訓練(実地訓練)
- キャリアアップ計画などの説明・確認
- ハラスメント防止の相談窓口設置
- ICT(情報通信技術)を使った不測の事態対応体制整備
- 工業製品製造業分野
- これまでは受け入れ機関に対して製造業特定技能外国人材連絡会などへの所属が義務づけられていましたが、その要件が緩和。
- その他、業務内容や就労形態における柔軟性が向上。
- 外食業分野
- 外食業における就業範囲が拡大。例えば、風営法の許可を受けた旅館・ホテル内での飲食接客業務も、特定技能外国人が可能になるケースがあります。
- その他、定める基準の見直しによって、より実務に即した運用が可能に。
2.2 届出・支援義務の見直し(行政手続きの簡素化)
- 定期届出の頻度緩和
これまで四半期ごとに必要だった「受入・活動・支援実施状況届出」が、年1回(4〜5月) に変更されました。 - 随時届出のルール強化・拡大
- 支援計画変更、就労開始遅延、中断などを新様式で報告
- 届出様式の統一やオンライン面談を取り入れるなど、運用の効率化を図る。
2.3 地域共生(自治体連携)強化
- 自治体との協力・連携義務
特定技能所属機関(受け入れ企業)に対して、地方公共団体との協力が改正で明文化されました。 - 共生施策への参画
例として、自治体が実施する日本語教室、防災・ゴミ出しルールの周知、地域交流活動などへの協力が求められるようになります。 - 協力確認書の提出
2025年4月以降、新規受け入れや在留資格更新を行う際には、自治体との協力確認書が重要になるケースがあると指摘されています。
2.4 在留管理・制度整備の改良
- 運用要領の更新
出入国在留管理庁は、特定技能制度全体を担う運用要領および分野別運用要領を改正。2025年4月1日から新要領が適用されています。 - 在留資格申請・様式の見直し
- 特定技能関係の申請・届出様式が改訂され、必要書類も刷新。
- 分野ごとの要領別冊(例:介護、工業製品製造、外食など)も改訂。
- 新制度(育成就労制度)との整合性
将来的な技術移行や在留形態の安定を目指し、特定技能制度と育成就労制度の整合性を高める方向が示されています。
3. 改正の影響とメリット・リスク
制度改正により、企業・登録支援機関・外国人それぞれにとってメリットと注意点があります。
3.1 企業・受け入れ機関への影響
メリット:
- 届出負担の軽減により、運用コストと時間を削減可能。
- 介護や外食など人手不足の深刻な分野で柔軟な人材活用ができるようになる。
- 地域自治体と連携することで、地域共生の取り組みを通じたブランド価値向上やCSR(企業の社会的責任)強化につながる。
- 改正後の運用要領や様式が明確化され、制度への適合や申請の安定性が高まる。
リスク・注意点:
- 地域公共団体との連携義務が明文化されることで、新たな業務負荷・コストが発生する可能性。自治体ごとの要求や制度のばらつきにも留意が必要。
- 随時届出の義務強化により、支援計画の変更や就労中断など柔軟な働き方をする場合は管理が煩雑化するおそれ。
- 運用要領改正に伴う社内体制の再構築が必要(担当者教育、報告フローの見直しなど)。
- 在留申請・更新の際、新しい様式や追加資料が求められる場合があるため準備が必要。
3.2 登録支援機関への影響
メリット:
- 支援内容や計画の見直しが求められる一方で、新ルールを踏まえた支援を提供することで付加価値が高まる。
- 年1回の定期届出により、事務負担が軽減され、本来の支援活動にリソースを割ける。
- オンライン面談の導入により、支援効率が上がり、より柔軟な支援体系が確立できる。
リスク・注意点:
- 新たな届出様式や報告体制を整備する必要がある。
- 支援計画の変更時などに新たな報告義務があるため、計画作成時の設計ミスや漏れがリスクになる。
- 地方自治体との連携協力が増える可能性があり、地域ごとの要件差異を理解する必要が出てくる。
3.3 特定技能外国人(労働者)への影響
メリット:
- 介護分野で訪問介護が認められるようになり、より多様なキャリアパスが開かれる。
- 受け入れ企業が自治体との共生施策を通じて生活支援を強化すれば、安心して生活できる環境が整いやすくなる。
- 支援制度のデジタル化・形式統一により、手続きが分かりやすくなる可能性。
リスク・注意点:
- 新しい要件(例:訪問介護での研修、実地訓練など)があるため、受け入れ企業が条件をきちんと満たしているか確認が重要。
- 計画変更時や就労中断時の届出が義務付けられることで、不安定な就労形態には注意が必要。
- 地方自治体との連携施策(例:地域共生活動への参加)が期待されるが、それが実際に成果を出せるかは企業・自治体双方の取り組みに依存する。
4. 実務対応のポイント/ステップ
制度改正を受けて、企業や支援機関がとるべき実務対応や準備ステップを整理します。
- 改正内容の社内周知
- 人事・総務・法務部門など関連部門で改正ポイントを共有。
- 新しい運用要領、届出要件、様式をチェックし、既存運用とのギャップを洗い出す。
- 自治体との関係構築
- 所在自治体の共生施策を調査。どのような地域活動・支援があるかを把握。
- 協力確認書の取得プロセスを確認。自治体との協力窓口を設ける。
- 地域交流、日本語教室、防災・生活情報共有などの協力内容を具体化。
- 支援計画の見直し・再設計
- 支援計画を改正後の形式・要件に沿って見直す。
- 訪問介護など新しい業務を扱う場合は、研修計画・同行訓練・ICT整備などを含めた体制を組む。
- 計画変更に備えて、報告・届出の手順を明文化。
- 届出・報告フローの整備
- 年1回の定期届出に対応できるよう、担当者・スケジュールを設定。
- 随時届出(就労開始遅延、中断など)に備え、報告用テンプレートを作成。
- オンライン面談の体制を整え、記録方法を明確化。
- 社員・外国人労働者への説明
- 特定技能外国人に対して、新制度下で可能となる業務(例:訪問介護など)や支援内容を説明。
- ハラスメント防止相談窓口やキャリアアップ制度など、新要件への対応を周知。
- リスク管理
- 計画不備、届出漏れなどを防ぐための内部監査やチェック体制を構築。
- 自治体の共生施策への協力が不十分な場合の対応策をあらかじめ検討。
- 法務・行政書士と連携し、申請・運用リスクを適切に管理。
5. Q&A(よくある質問)
以下によくある質問とその回答をまとめました。
Q1. なぜ今回、介護・製造・外食の3分野だけが運用方針改正の対象なのですか?
→ これらの分野は特に人手不足が深刻で、また従来制度では就労可能な業務に制限がありました。閣議決定による改正で、より柔軟に特定技能外国人を活用できるように運用方針を見直すことになったのです。
Q2. 訪問介護への従事が可能になるとは具体的にどういう意味ですか?
→ 介護分野の特定技能外国人が、これまでは原則できなかった訪問(在宅)介護の仕事に従事できるようになります。ただし、一定の研修や実地訓練、ICT整備、相談窓口の設置など要件があります。
Q3. 定期届出が年1回になるのはいつからですか?
→ 2025年4月1日の制度改正に合わせて、定期届出が年1回(4~5月)に変更されました。
Q4. オンライン面談が導入されたと聞きました。具体的な意味は?
→支援機関が特定技能外国人と面談するとき、オンラインでも可能になる運用が検討・導入されています。これにより、時間・場所の制約を軽減し、柔軟に支援面談を設計できます。
Q5. 地域自治体との協力は具体的にどこまで求められるのでしょうか?
→自治体との協力義務には、地域の共生施策への参加・協力(日本語教室、防災・ごみ出し情報の共有など)が含まれます。また、協力確認書の提出が必要なケースもあります。
Q6. 自社は小規模企業ですが、今回の改正に対応可能でしょうか?
→はい、小規模企業でも制度を活用する価値があります。ただし、自治体との連携や報告体制を構築する必要があるため、支援機関(行政書士・登録支援機関)と相談しながら実務対応を整えることが重要です。
Q7. 今から受け入れを始める場合、どのステップを優先すべきですか?
→まずは 自治体との協力関係の確認 → 支援計画の策定・見直し → 届出体制と担当者の整備 → 外国人材への制度説明・支援準備 を順に進めるのが現実的です。
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7. 結論と今後の見通し
2025年の特定技能制度改正は、制度の 柔軟性強化、運用負担軽減、地域共生の推進 を柱とする大きな転換点です。特定技能を活用する企業、外国人労働者、支援機関、ひいては地域社会にとって、多くのチャンスと課題が混在しています。
- 企業は、改正点を踏まえた戦略的な外国人材採用・支援体制の構築が必要です。
- 支援機関は、新制度を踏まえたサービス設計とデジタル対応を進めることで、付加価値を高められます。
- 自治体は、共生施策を通じて外国人の定着を支え、地域の活性化につなげられます。
- 外国人材にとっては、より多様な業務(例:訪問介護)への道が開き、安定したキャリア構築が可能になる可能性があります。
また、今後導入が見込まれている 育成就労制度(2027年予定) との整合性を考えると、特定技能は中長期的な在留・就労パスの重要な一部になるでしょう。
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![]() 「記事監修」 加納行政書士事務所 運営HP:ビザ申請サポートNavi https://visasupportnavi.net/ 代表 特定行政書士 加納 裕之 「学歴」 同志社大学大学院法学研究科公法学専攻博士前期課程修了(修士(法学)) 明治大学法科大学院修了 「資格」 行政書士(特定付記)、TOEIC805点 「専門分野」 入管取次・ビザ申請、在留資格、永住・帰化、外国人問題、国際公法 |

