特定技能外国人受入れ企業が守るべき義務と実務チェック完全ガイド

1. 特定技能制度の概要

まず、制度の骨格を整理しておきましょう。

  • 「特定技能」とは、深刻な人手不足が生じている特定産業分野において、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れるため、2019年4月より設けられた在留資格です。
  • 在留資格には「特定技能1号」「特定技能2号」があり、それぞれ在留期間・転職可否・家族帯同可否などで異なります。
  • 制度上、受入れ企業(所属機関)には、雇用契約の適正な履行、外国人材への日常生活・職業生活上の支援、適切な雇用管理・在留管理を行う義務が課されています。
  • 制度の運用にあたっては、出入国在留管理庁(法務省)や関連省庁の「運用要領」「ガイドブック」「分野別基準」などが随時更新されており、最新の運用状況を確認することが大切です。

このように、企業・受入れ機関にとって、ただ「採用できる」というだけでなく、受入れ後の体制整備・義務履行も重要な制度設計となっています。以下では、企業が守るべき具体的義務を整理します。


2. 受入企業が守るべき義務一覧

ここでは、企業(受入れ機関)が守るべき主たる義務を整理します。なお、義務の内容・詳細については、公式ガイドブック・運用要領を必ずご確認ください。

2.1 雇用契約の締結・履行義務

  • 受入れ機関は、対象となる外国人(特定技能外国人)と、法務省令が定める「特定技能雇用契約」を締結しなければなりません。
  • この雇用契約では、例えば以下のような点が求められます:
    • 報酬額が「当該業務に従事する日本人と同等以上」であること。
    • 雇用期間・就業条件・職務内容等が明確であること。
  • 受入れ後、契約内容が適切に履行されていること(例:賃金支払い、就業条件の確保)が義務化されています。例えば、ガイドブックでは「外国人と結んだ雇用契約を確実に履行(例:報酬を適切に支払う)」ことが明記されています。
  • 違反があった場合、企業側が受け入れ停止・指導・改善命令などを受けるリスクがあります。

このため、採用段階から雇用契約書を法令準拠で整え、入社後も契約内容通り運用・記録を残す運用が必要です。

2.2 支援計画の作成・実施義務(特に1号)

  • 特定技能1号(1号外国人)は、職業生活・日常生活・社会生活上の支援を受ける権利があります。受入れ機関(所属機関)は、この支援を行うか、または支援を委託することができます。
  • 支援を自社で実施する場合、以下のような体制・基準を満たす必要があります:
    • 支援責任者・支援担当者を選任していること。
    • 外国人材が理解できる言語で支援が可能な体制を整えていること。
    • 支援に要する費用を、外国人本人に負担させてはならないこと。
  • 受入れ機関が支援を「全部」委託している場合、委託先が登録支援機関であれば、当該機関の支援体制をもって義務を履行したと見なされます。
  • 支援内容の例としては、「住居入居の支援」「生活オリエンテーション」「日本語学習の機会提供」「相談・苦情対応」などがあります。
  • 企業としては、支援計画を作成・保存し、支援実績を記録・管理する必要があります。

支援体制を整えないまま受入れを開始すると、制度違反となる場合があるため、受入れ前に支援体制の設計・運用フローを確認しておくことが重要です。

2.3 同等以上の処遇・報酬確保義務

  • 受入れ機関は、特定技能外国人と同じ職務(または同等の職務)に就く日本人と比べて、待遇・報酬が著しく低くならないように、「日本人と同等以上」の処遇を確保することが求められています。
  • また、制度上「日本人の雇用機会の喪失及び処遇の低下を防ぐ」観点から、分野別運用方針等にも明記されています。
  • 賃金の前払い・無償労働・過重労働など、不適切な処遇は法令違反とされ、企業の信用・制度利用継続にも影響します。
  • 実務として、労働条件明示義務、雇用契約書の整備、賃金台帳・勤怠管理の整備などが求められます。

この義務を守ることで、制度趣旨 ― 日本人労働者と外国人材の公正な共存 ― に合致した受入れができます。

2.4 在留・雇用管理・届出義務

  • 受入れ機関は、外国人材が適法に在留・就労できるよう、以下のような義務を果たさなければなりません。
    • 入国・在留期間・在留資格変更の確認・管理。
    • 雇用契約変更・所属機関変更・在留資格変更などの際、適切に届出を行う。
    • 出入国在留管理庁への各種報告・届出(例えば、受入れを開始した、または終了した、支援委託を始めた・終えた等)を行うこと。
  • 受入れ機関自身が、5年以内に法令違反(出入国・労働法関係)をしていないことなど、適格性も問われます。
  • 定期的に制度の運用状況・状況変化を確認し、必要に応じて就業・在留条件を見直す体制が望まれます。

このような在留・雇用管理義務を怠ると、制度利用停止、または受入れ資格の取消しなどのリスクがあります。

2.5 その他(禁止事項・監督・罰則)

  • 制度上、受入れ機関には「不利益取扱いの禁止」「高額な紹介料を外国人に負担させない」等の義務も含まれています。
  • 監督機関(例えば出入国在留管理庁・厚生労働省)による監査・指導対象となり、違反があれば改善命令・制度利用停止・罰則などが適用されます。
  • 受入れ後、外国人材の行方不明・不法就労等が発生した場合、受入れ企業側が責任を問われるケースがあります。例えば、登録支援機関が過去に行方不明者を発生させていないことが登録要件となっています。

これらの義務を企業として確実に把握・実践することが、制度活用の安心・実効性に繋がります。


3. 実務チェックポイントと対応フロー

ここからは、受入れ企業が「特定技能外国人を受け入れよう」と考えてから、実際に受け入れ、運用を続けるまでの流れを想定し、各ステップでのチェックポイントを整理します。

ステップ① 制度利用準備

  • 受入れ分野が「特定技能対象分野」であるか確認(最新の分野・運用要領を参照)
  • 自社が「適格な所属機関(受入れ機関)」となっているか確認
    • 過去5年以内に重大な出入国・労働法違反がないか
    • 雇用契約・支援体制を整えているか
    • 報酬・就業条件が日本人と同等以上とできるか
  • 支援体制の有無を検討
    • 自社で支援を行うか、支援を外部(登録支援機関)に委託するか
    • 自社実施なら支援責任者・担当者を配置し、言語・生活支援の体制を整える
  • 雇用契約モデルや支援計画書、届出書類の雛形を用意

ステップ② 受入れ手続き・雇用契約締結

  • 外国人候補者と「特定技能雇用契約」を締結
    • 契約内容として、職務内容・就業時間・休暇・報酬・福利厚生などを明記
    • 契約書・日本語版(または十分な説明)を整備
  • 入国・在留資格取得・変更申請を支援(必要な書類・手続を確認)
  • 支援計画を作成(1号の場合)
    • 生活オリエンテーション、住居・生活環境の整備、日本語学習支援、相談窓口設置などを記載
    • 支援計画の保存・記録

ステップ③ 受入れ・支援実施

  • 来日・就業初期段階にあたり、オリエンテーション・住居確保・生活環境整備等の支援を実施
  • 日常・職場における相談・苦情対応窓口を設置
  • 日本語学習環境・業務指導・適切な就業条件の確認
  • 労働条件・賃金支払い・勤怠・就業時間・安全衛生など、日本人と同等以上の処遇を維持
  • 在留・雇用管理を継続(在留期限、更新、契約変更、所属変更等の確認)

ステップ④ 運用・管理・届出

  • 社内に「特定技能外国人受入れ管理台帳」などを整備し、契約更新・支援記録・相談対応記録などを保存
  • 届出義務:例えば、受入れを開始または終了したとき、支援委託を開始・変更・終了したときなど、所定の届出を出入国在留管理庁へ行う。
  • 定期的に自社の体制・処遇・支援状況を内部チェックし、必要に応じて改善
  • 違反・事故が起きた場合の想定(例えば、外国人が行方不明、報酬未払いなど)と対応体制をあらかじめ準備

ステップ⑤ 更新・終了・転籍対応

  • 在留期間の満了または更新手続き時に、契約・支援状況・在留管理状況を確認
  • 所属機関を変更する場合、所定の届出・契約変更・転籍先の確認を行う  
  • 受入れ終了時に、支援義務の終了手続・記録の保存を行う

4. Q&A(よくある疑問)

以下では、企業のご担当者からよく頂く疑問・質問を整理し、簡潔に回答します。

Q1.「特定技能1号」と「特定技能2号」で、企業側の義務は変わりますか?
A1.はい、義務の内容・程度が一部異なります。例えば、特定技能1号では支援義務(支援計画作成・実施)が明確に企業に課されていますが、特定技能2号では、その支援義務は軽くなる傾向があります。
したがって、企業はどちらの在留資格で受け入れるかに応じて、支援体制・管理体制を調整する必要があります。

Q2.支援を外部に委託すれば、企業側の責任がなくなりますか?
A2.いいえ。企業が登録支援機関に支援を全部委託すれば支援計画の作成・実施という義務について「支援機関の体制をもってみなされる」部分がありますが、最終的な適格性や雇用契約・報酬・在留管理などは受入れ企業の責任です。
また、支援委託を始める場合には、届出・契約・実務運用を慎重に行う必要があります。

Q3.報酬を「日本人より少し低く」しても問題ないでしょうか?
A3.制度趣旨から言えば、「日本人と同等以上」の報酬・処遇を求められています。実務上、「日本人より著しく低い報酬」となると制度違反となる可能性があります。ガイドブックにも明記されています。
したがって、契約時から自社内で日本人と同じ業務内容・年齢・経験の労働者の処遇を基準として比較検討し、差額が大きくならないようにすることが望ましいです。

Q4.受入れ人数に制限はありますか?
A4.原則として、受入れ機関単位で「何人まで」という明確な人数上限は設けられていない分野が多いです。
ただし、分野(例えば介護・建設)によっては「常勤職員の数をベースにした人数上限」が設けられている場合があります。運用要領・分野別方針を確認してください。

Q5.万が一、外国人材が行方不明・不法就労した場合、企業はどうなりますか?
A5.このような事態が起きた場合、企業(所属機関)にも一定の責任が問われます。たとえば、制度要件として「5年以内に出入国・労働関係法令違反がないこと」が所属機関の要件の一つとされています。
また、過去に行方不明者を発生させた登録支援機関は登録が認められていないという要件もあります。企業側としては、外国人材の勤務状況・生活状況・相談対応などフォロー・管理を徹底することが重要です。

Q6.支援費用を外国人本人に支払わせてもよいですか?
A6.いいえ、支援義務を企業又は委託先が実施する場合、その費用を外国人材本人に負担させることは制度上認められていません。
企業は支援実施にかかる費用を適切に計上し、外国人材からの負担をさせないように注意が必要です。


5. まとめ

企業が「特定技能外国人を受け入れよう」と考えた際、制度の趣旨を理解し、義務を適切に履行できる体制を整えておくことが、安心して運用を継続するために不可欠です。特に以下のポイントが重要です:

  • 雇用契約の適正な締結・履行。
  • 支援計画の作成・実施(特に1号の場合)。
  • 日本人と同等以上の処遇・報酬確保。
  • 在留・雇用管理および届出義務の履行。
  • フォロー体制・相談窓口・支援体制の整備。
  • 違反リスクへの備え、記録・管理をしっかりと。

このような体制を構築・運用することで、企業と外国人材の双方にとって有益・持続可能な受入れが実現できます。また、制度を理解した上で、社内手続き・運用ルール・記録管理を整備することで、将来的な変更・監査・確認にも備えられます。


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  「記事監修」 加納行政書士事務所 運営HP:ビザ申請サポートNavi https://visasupportnavi.net/ 代表 特定行政書士 加納 裕之 「学歴」  同志社大学大学院法学研究科公法学専攻博士前期課程修了(修士(法学))  明治大学法科大学院修了 「資格」  行政書士(特定付記)、TOEIC805点 「専門分野」  入管取次・ビザ申請、在留資格、永住・帰化、外国人問題、国際公法
「記事監修」
加納行政書士事務所
運営HP:ビザ申請サポートNavi https://visasupportnavi.net/  

代表
特定行政書士 加納 裕之  
「学歴」
 同志社大学大学院法学研究科公法学専攻博士前期課程修了(修士(法学))
 明治大学法科大学院修了
「資格」
 行政書士(特定付記)、TOEIC805点
「専門分野」
 入管取次・ビザ申請、在留資格、永住・帰化、外国人問題、国際公法