「技能実習」から「特定技能」へ変更する際の注意点 — 受け入れ企業・実習生に向けた実務ガイド
目次
はじめに
日本国内では、外国人材活用の制度として、技能実習制度と特定技能制度がそれぞれ位置づけられています。企業の人手不足解消や国際貢献といった目的の違いがある中で、「技能実習」から「特定技能」への移行を検討するケースも増えています。
本記事では、移行のメリット・デメリット、制度上の違い、注意点、手続きフロー、よくあるQ&Aとともに、在留資格変更を円滑に進めるためのポイントを詳しく解説します。
1. 制度の基本と両者の違い
まず、制度の目的・対象・扱いなどの基本を整理します。これを理解することで、移行における“なぜ注意が必要か”が明確になります。
技能実習制度の概要
- 技能実習制度(技能実習1号・2号・3号)は、主に外国人が「技能を習得して母国に持ち帰る」ことを目的とした制度です。
- 対象となる職種・作業が限定されており、原則として転職や職種の変更が認められず、就労主体というより実習主体です。
- 在留期間も、1号は1年以内、2号は最長2年、3号を含めて実習期間通算で最長5年という枠があります。
特定技能制度の概要
- 特定技能制度(特定技能1号・2号)は、日本国内の深刻な人手不足を背景に、即戦力となる外国人材を受入れる制度です。
- 1号・2号で在留期間・転職可否・帯同家族などの扱いが異なります。特定技能1号は通算5年まで、2号は上限なし(分野による)という在留期間の違いがあります。
- また、転職が可能であるなど、働き手としての側面が強くなっています。
両制度を比較しておくべき違い(主なポイント)
| 項目 | 技能実習 | 特定技能 |
|---|---|---|
| 制度の目的 | 技能移転・国際貢献 | 国内人材不足の補填 |
| 主な対象 | 実習生(技能習得) | 労働者(即戦力) |
| 職種・作業の範囲 | 多数あるが制限あり | 16分野(2025年時点) |
| 転職・業務変更 | 原則不可 | 同一分野内で転職可能 |
| 在留期間 | 最長5年(3号含む) | 1号は最長5年、2号は上限なし(分野要件あり) |
このような制度間の違いを把握しておかないと、「技能実習中だから自動的に特定技能に移行できる」といった誤解を招く恐れがあります。
2. 移行が可能となる条件・対象者
「技能実習」から「特定技能」へ在留資格変更を検討する際、どのような条件を満たさなければならないのかを整理します。条件を満たさなければ移行の許可が下りないため、非常に重要です。
主な移行条件(2号から1号へ)
- まず、実習制度である技能実習2号を良好に修了していることが大前提です。
- 「良好に修了」とは、例えば2年10か月以上実習を行った、欠勤・遅刻・問題行動などがない、技能検定3級またはそれに準ずる技能実習評価試験に合格している、評価調書に「良好」と記録されているなどの要件があります。
- 次に、技能実習時の職種・作業内容が、特定技能1号の対象となる「産業分野」と関連性が認められること。
- つまり、実習してきた内容が、特定技能分野で求められる技能・経験と整合しているかが審査されます。
- 関連性がない分野に移る場合、試験免除の対象にならない、あるいはそもそも移行できないケースがあります。
- その他、在留資格変更申請時点で、受入れ企業(所属機関)が特定技能外国人としての適正な受入れ体制を有していること、支援計画を策定していることなども求められます。
試験免除のルール
- 通常、特定技能1号を取得するには、技能試験・日本語試験の合格が必要です。
- ただし、技能実習2号を良好に修了している場合には、技能試験および日本語試験が免除されるケースがあります。
- ただし、「職種・作業の関連性」が認められない場合には、日本語試験だけが免除され、技能試験が必要となることもあります。
- 注意:技能実習1号や途中で中断した技能実習からの移行、あるいは技能実習3号からの移行では、別の要件(実習計画の満了など)が必要となります。
対象分野・職種の確認
- すべての技能実習職種が特定技能へ移行できるわけではありません。例えば、技能実習では対象でも、特定技能では対象外の職種・作業もあります。
- 特定技能1号の対象分野には、介護、外食業、飲食料品製造業、自動車整備、建設、宿泊、農業、漁業などがあります。
- 企業・実習生は、現在の職種・作業が「特定技能制度で認められている分野か」「技能実習で行った作業と整合性があるか」を事前に確認する必要があります。
3. 「変更時」の主な注意点(企業側・実習生側)
制度上の条件をクリアしていても、移行を進める際には多くの注意点があります。企業・受入れ機関・実習生それぞれの立場から押さえておきたいポイントを整理します。
企業(受入れ機関)側の注意点
- 雇用条件の見直し
- 特定技能外国人として雇用する場合、日本人従業員と同等以上の賃金・労働条件を確保する必要があります。実習制度での条件をそのまま用いると、適用が認められない可能性があります。
- 雇用契約書の内容、業務内容、労働時間・休日・待遇・保険加入などを改めてチェックすることが重要です。
- 支援計画の策定・登録支援機関の検討
- 特定技能1号では、受入れ機関または登録支援機関による生活支援・就労支援の計画策定が必須です。実習制度時とは異なる支援体制が求められます。
- 支援計画には住居確保、生活オリエンテーション、相談窓口設置、日本語学習支援などが含まれます。これらを怠ると在留に影響を及ぼす可能性があります。
- 審査スケジュール・在留期限の管理
- 在留資格変更申請には時間がかかる場合があり(概ね2~3ヶ月程度を見込むべき)です。
- 技能実習2号の在留期限が近づいている場合、期限切れになる前に申請を完了できるよう準備することが重要です。期限切れ後の就労は違法となる可能性があります。
- 業務内容・職種の確認
- 実習していた職種・作業と、特定技能で従事する業務の関連性を明確にしておく必要があります。関連性が認められない場合、移行が認められないか、試験免除が適用されない可能性があります。
- また、対象分野外の業種に移行してしまうとそもそも在留資格変更が許可されないことがあります。
- リスク管理(受け入れ側)
- 在留資格変更が不許可となった場合、実習生は在留期限内に帰国等の措置を取らなければなりません。企業側もそのリスクを把握し、移行を前提としつつも複数の想定ルートを検討すべきです。
- また、法令遵守・適切な受入れ管理体制が整っていないと、監理団体・送り出し機関・登録支援機関ともトラブルとなるため、体制の見直しが必要です。
実習生(外国人)側の注意点
- 良好修了の状態を確保する
- 実習企業・監理団体とのトラブル・欠勤・技能習得不足などがあると、「良好に修了」と認められず、移行要件を満たさないことがあります。実習中から日常の行動・技能取得状況を意識することが重要です。
- 実習2号の期間(2年10か月以上など)を満たしていない、あるいは途中で中断している場合は移行できない可能性があります。
- 職種・作業の関連性を自ら確認する
- 自分が行ってきた作業内容が、特定技能で認められている業務内容と関連性があるかを、受入れ企業とともに確認してください。関連性が薄いと不許可・試験免除ができない可能性があります。
- 関連性がない場合には、技能試験・日本語試験を受ける必要があるなど、手続きが複雑化することがあります。
- 就労契約・在留手続きについて理解を深める
- 特定技能として働く場合、実習生時代とは在留資格・働き方・転職可否などが変わります。自分の在留カード・契約内容・雇用先の条件をしっかり確認しましょう。
- 在留期限や次の更新、転職等の要件も制度によって異なるため、変更後の働き方も視野に入れて準備することが大切です。
- 日本語・技能試験の有無・免除要件の確認
- 試験免除が認められるのは、あくまで条件を満たした場合です。自分がその条件に該当するか、受入れ企業・行政書士等に確認し、必要であれば早めに試験対策を行うべきです。
4. 手続き・申請フロー
「技能実習」から「特定技能」へ移行する際の実務的な流れを、企業・実習生双方向けに整理します。
主な手続きステップ
- 受入れ企業側での受け入れ準備・条件確認
- 特定技能外国人を受入れるための条件・体制を整えます(支援計画・雇用契約の整備・保険加入等)
- 実習生の職種・作業が対象分野に該当するか、関連性があるか確認する。
- 実習生との雇用契約の締結/雇用条件の見直し
- 特定技能1号としての雇用契約を結び、必要な書類(契約書、雇用条件通知書等)を準備します。
- 実習生本人による書類準備
- 在留資格変更許可申請書、在留カード・パスポートのコピー、技能実習修了証明書(2号等)、技能・日本語試験合格証(ある場合)など。
- 支援計画の策定/登録支援機関との連携(必要な場合)
- 住居、生活指導、日本語学習支援、相談窓口設置等を含めた支援計画書を作成。企業が自社で支援する場合はその体制を整備。
- 在留資格変更許可申請の提出
- 所轄の地方出入国在留管理局へ申請。申請期間としては、在留期限満了の3か月前から受付可能なケースが一般的です。
- 審査・許可取得・在留カード受領
- 許可が下りたら、新しい在留カード(「特定技能」に変更)を受け取ります。転職や職種変更を検討する場合は、所属機関変更届出も忘れずに。
注意すべきスケジュール・タイミング
- 在留期限の切れる直前では書類準備・審査時間が足りず、在留資格変更が間に合わず実習終了に伴い帰国せざるをえないケースがあります。なるべく余裕を持って準備を進めましょう。
- 手続き完了後も、特定技能外国人としての義務・届出(住居地変更・所属機関変更・支援計画実施報告等)があります。忘れずに対応してください。
5. メリット・デメリット
移行を検討するにあたって、制度変更によるメリット・デメリットを整理しておきましょう。
メリット
- 実習期間を終えた後、特定技能として日本で引き続き就労できる可能性があるため、実習生にとってキャリアパスが広がります。
- 企業側にとっても、既に技能や日本語をある程度備えた人材を受入れることができ、教育期間を短縮できる可能性があります。
- 特定技能外国人は転職が可能な分野もあるため、実習終了後の受入れ先やキャリアを柔軟に設計できます。
デメリット・リスク
- 条件を満たしていないと、移行の申請が不許可になるリスクがあります。特に「職種・作業の関連性」を満たしていないと、試験を受けなければならない・そもそも対象外となる可能性があります。
- 手続き・書類準備・支援体制の整備など、企業側の負担が増える可能性があります。
- 特定技能1号の在留期間は通算5年という上限があるため、長期的な在留を希望する場合は2号や他の在留資格を視野に入れる必要があります。
6. よくあるQ&A(実務でのチェックポイント)
以下では、実務でよく出る質問をQ&A形式で整理します。
Q1:技能実習1号から直接特定技能1号へ移行できますか?
A:原則、できません。技能実習2号を「良好に修了」していることがほとんどの移行要件となっています。
Q2:技能実習2号は終えていないけれど、特定技能1号へ変更できますか?
A:技能実習2号を終了していない場合、移行要件を満たしていない可能性が高く、申請が認められないケースがあります。実習計画通りに実習を終えることが前提となります。
Q3:職種・作業内容が技能実習時と異なっても移行できますか?
A:職種・作業の関連性が認められれば可能です。ただし、関連性が薄い場合、技能試験や日本語試験の免除が受けられない、またはそもそも対象外の可能性があるため十分に確認してください。
Q4:在留資格変更申請の審査期間はどれくらいですか?
A:一般的には2~3か月程度が目安です。ただし、申請内容・書類の充実度・入管の審査状況によって変動するため、余裕を持って準備しましょう。
Q5:移行後、転職は可能ですか?
A:特定技能1号では、同一分野内で転職が可能なケースがあります。ですが、移行直後から転職を考える場合には、所属機関や支援機関と契約内容を十分確認する必要があります。
Q6:支援機関を企業自ら設置できますか?
A:はい、企業が自社で支援体制を整えて登録支援機関と同等の支援を提供できると認められれば、自社支援できます。とはいえ、実務上は登録支援機関に委託する企業も多くあります。
7. まとめ
「技能実習」から「特定技能」への移行は、実習生・受入れ企業双方にとってキャリア・雇用継続のチャンスを提供しますが、条件・手続き・書類・受入れ体制など適切に整えておかなければリスクも伴います。
特に、次の3点を必ず確認してください。
- 技能実習2号を良好に修了しているか
- 実習してきた職種・作業が特定技能の対象分野/業務と関連性があるか
- 受入れ企業側が支援体制・雇用契約・在留手続きに備えているか
これらを押さえたうえで、適切に準備・申請を進めることで、移行によるメリットを最大化できます。
受入れ企業のご担当者・技能実習生本人の方々は、ぜひ本記事をチェックリストとして活用いただき、専門家(行政書士・社会保険労務士等)への相談も併せて検討してください。
関連記事
- 【特定技能1号】技能検定・日本語試験の完全ガイド|受験内容・免除制度・合格のコツを解説
- 技能実習2号良好修了者の特定技能移行とは|日本語・技能試験が免除される理由と条件
- 【特定技能ビザ間の在留資格変更】完全ガイド|分野変更・転職時の注意点を専門家が解説
参考リンク
無料相談
| まずは、無料相談に、お気軽にお申込み下さい。ご相談の申し込みは、「お問い合わせページ」から承っております。なお、無料相談は事前予約制とさせて頂いています。 |
![]() 「記事監修」 加納行政書士事務所 運営HP:ビザ申請サポートNavi https://visasupportnavi.net/ 代表 特定行政書士 加納 裕之 「学歴」 同志社大学大学院法学研究科公法学専攻博士前期課程修了(修士(法学)) 明治大学法科大学院修了 「資格」 行政書士(特定付記)、TOEIC805点 「専門分野」 入管取次・ビザ申請、在留資格、永住・帰化、外国人問題、国際公法 |

