特定技能外国人の就労形態として認められるものは何ですか?

日本の人手不足解消の一翼を担う在留資格「特定技能」。この特定技能外国人を雇用する際、企業が必ず理解しておかなければならないのが、**「特定技能外国人に認められる就労形態」**です。通常の日本人労働者の場合と異なり、特定技能制度の趣旨に基づき、いくつかの厳格な制限が設けられています。

本記事では、特定技能外国人の就労形態について、認められる契約の種類から、原則となる働き方、さらには農業・漁業分野で特例的に認められている派遣雇用について、詳しく解説します。


1. 特定技能制度の趣旨と就労形態の原則

1-1. 特定技能外国人の「働く」ことへの基本的な考え方

一般的に、会社に雇用されて働く場合、**「単一または複数の会社での勤務」「直接雇用または派遣雇用」「フルタイムまたはパートタイム」**といった多様な就労形態が考えられます。

しかし、特定技能外国人の就労においては、在留資格「特定技能」を認めた法律の趣旨に反する不適切な就労を防ぐため、一定の制限が設けられています。これは、安定的な雇用と日本での生活を保障し、外国人人材がその技能を最大限に活かせる環境を提供することを目的としています。

1-2. 認められる契約の種類は「雇用に関する契約」が原則

日常で使われる「雇う」という言葉には、法律上、「雇用」「請負」「委託」など様々な契約形態があります。特定技能外国人の就労契約として、基本となるのは**民法上の「雇用契約」(民法623条)**です。

請負契約(民法632条)や委任契約(民法643条)といった、業務の完成や事務の処理を目的とする契約形態での雇用は、特定技能外国人の就労形態としては認められません

ただし、現代のビジネスにおいては、複数の要素が複合的に含まれる契約も少なくありません。そのため、純粋な雇用契約でなくとも、「雇用に関する契約」であると言えるものであれば、特定技能外国人の就労契約として認められます。重要なのは、外国人と企業との間に実質的な指揮命令関係があり、労働法規が適用される関係性があることです。


2. 制限される就労形態:単一企業でのフルタイム直接雇用が原則

特定技能外国人の就労形態は、原則として以下の2つの制限があります。

2-1. 同時に就労できる会社は「1社」まで

特定技能外国人は、複数の受入企業と同時に雇用契約を締結し、並行して働くことは認められていません。つまり、「副業」的な働き方や、複数の会社を掛け持ちする就労形態は、特定技能制度では原則として不可とされています。

この原則を理解する上で重要となるのが「出向」の扱いです。

【出向の扱い:在籍型と移籍・転籍型】

出向には、大きく分けて「在籍型」と「移籍・転籍型」の二種類があります。

  • 在籍型出向(認められない)
    • 特定技能外国人が、出向元と出向先の複数の企業と雇用に関する契約を締結する形態です。これは「複数の受入企業との契約」にあたるため、認められません
  • 移籍・転籍型出向(認められる可能性あり)
    • 特定技能外国人が、出向先とのみ雇用契約を締結する形態です。この場合、複数の企業と契約していることにはならないため、就労形態として認められる可能性があります

【転職(転籍)は認められる】

一度の就労は1社に限られますが、特定技能外国人の**転職(転籍)**は認められています。転職が可能なのは、以下の要件を満たす業務区分内です。

  1. 同一の業務区分であること。
  2. 技能水準の共通性が試験等によって確認されている業務区分であること。

これにより、外国人人材はキャリア形成を図りながら、より良い労働環境を求めて移動することが可能です。

2-2. 雇用形態は「フルタイムの直接雇用」が原則

特定技能外国人を受け入れる際の雇用形態は、以下の通りに定められています。

雇用形態契約形態原則例外的に認められる分野
フルタイム直接雇用〇認められる(原則)全分野
フルタイム派遣雇用×認められない農業分野、漁業分野のみ
パートタイム直接雇用・派遣雇用× 認められないなし

特定技能外国人の雇用は、フルタイムの直接雇用が原則です。これは、安定した雇用と生活基盤の確保を目的としています。パートタイムでの就労は原則として認められていません。


3. 農業・漁業分野に特例的に認められる「派遣雇用」

特定技能制度の原則は「フルタイムの直接雇用」ですが、農業分野漁業分野においては、それぞれの産業特性に鑑み、一定の要件のもとでフルタイムの派遣雇用が例外的に認められています。

3-1. 農業分野で派遣雇用が認められる理由

農業分野で派遣雇用が認められる最大の理由は、農作業の「繁閑差」が大きいという産業構造にあります。

  • 季節による繁閑の差: 季節によって農作業の忙しい時期とそうでない時期が大きく異なります。
  • 作目によるピーク期の違い: 作物によって収穫期や種植えなどの農作業のピーク期が異なります。

これらの特性に対応するため、「繁忙期に集中して労働力を確保したい」「複数の産地間でピーク期に合わせて柔軟に労働力を確保したい」という、現場の切実なニーズに応じる必要性から、労働者派遣事業者を受入企業とする派遣雇用が認められました。

農業分野の派遣雇用の仕組みは、労働者派遣事業者が特定技能外国人を雇用し、農業分野の事業者に派遣するという形になります。

3-2. 漁業分野で派遣雇用が認められる理由

漁業分野においても、労働力の柔軟な融通のニーズから派遣雇用が認められています。

  • 漁獲対象や漁法による繁閑期: 対象とする魚種や漁法によって、作業の忙しい時期が異なります。
  • 零細業者が多い地域特性: 漁業分野は零細な事業者が多く、業務地も半島・離島といった地域に偏在していることが多いです。

このため、「繁忙期や地域に合わせて、柔軟に労働力を融通したい」というニーズに対応するため、派遣雇用が導入されました。

【漁業分野の派遣雇用の具体例と特例】

漁業分野の派遣雇用では、漁業協同組合が受入機関(労働者派遣事業者)となる典型的な例があります。漁業協同組合が組合員である漁業者に特定技能外国人を派遣する場合、漁業協同組合特有の以下の要件を満たす必要があります。

  1. 組合員の事業または生活に必要な共同利用施設を設置する旨の規定が定款にあること。
  2. 派遣事業実施について総会決議で可決されていること。

なお、派遣雇用の場合、関連業務を行わせるにあたっては職業安定法を遵守する必要があります。


4. 特定技能外国人の就労形態 まとめ

特定技能外国人の就労形態は、その在留資格の目的である**「安定した就労」**の確保のために、厳格なルールが設定されています。

項目原則の就労形態例外として認められる形態
契約形態雇用に関する契約(雇用契約が基本)
就労先企業数1つの企業のみ
雇用形態フルタイムの直接雇用農業・漁業分野のみフルタイムの派遣雇用
出向移籍・転籍型のみ(出向先と単独契約)

企業側は、これらの原則と例外を正しく理解し、法令を遵守した形で特定技能外国人を受け入れ、安定的な就労環境を提供することが義務付けられています。


5. 【Q&A】特定技能外国人の就労形態に関する疑問を解消

Q1. 特定技能外国人に残業や休日出勤をさせることは可能ですか?

A. 可能です。特定技能外国人も日本の労働基準法が適用されます。そのため、36協定の締結など、法令に則った適切な手続きを踏んでいれば、日本人社員と同様に残業や休日出勤をさせることができます。ただし、特定技能外国人の活動内容を記した**「特定技能雇用契約」及び「支援計画」**に則った業務に従事させる必要があります。

Q2. 特定技能外国人にパートタイムで働いてもらうことはできますか?

A. **原則として認められません。**特定技能制度は、人手不足を解消するための即戦力となるフルタイム労働者を想定しており、安定的な生活を確保する観点からも、フルタイムの雇用形態が義務付けられています。例外規定もありません。

Q3. 在籍型出向が認められないのはなぜですか?

A. 在籍型出向は、特定技能外国人が出向元と出向先の「複数の受入企業」と同時に雇用に関する契約を結ぶことになるためです。特定技能制度では、同時に就労できる会社は1つまでに制限されているため、この制限に抵触するため認められません。

Q4. 農業分野で派遣雇用を行う場合、外国人材の生活支援は誰が行うのですか?

A. 特定技能外国人の受入れ企業(この場合は労働者派遣事業者)が、特定技能外国人への支援計画に基づき、適切な生活オリエンテーション、相談・苦情への対応、日本語学習の機会提供などの義務的支援を実施します。派遣先の事業者(農業事業者)も、業務遂行上の安全管理など、適切な労働環境を提供する責任を負います。


6. まとめ:適切な雇用形態で外国人材の力を最大限に活かす

特定技能外国人の雇用は、日本の人手不足解決に大きく貢献する一方、企業には制度の趣旨を理解し、厳格なルールを守ることが求められます。

**「フルタイム・直接雇用・1社のみ」の原則と、「農業・漁業分野の派遣雇用」**という例外を正確に把握することで、法令違反を防ぎ、外国人材が安心して能力を発揮できる環境を整備することができます。

特定技能外国人の受け入れをご検討の企業様は、本記事を参考に、適切な雇用形態での契約締結と、安定的な就労環境の提供に努めましょう。


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「記事監修」
加納行政書士事務所
HP:ビザ申請サポートNavi https://visasupportnavi.net/  

代表
特定行政書士 加納 裕之  
「学歴」
 同志社大学大学院法学研究科公法学専攻博士前期課程修了(修士(法学))
 明治大学法科大学院修了
「資格」
 行政書士(特定付記)、TOEIC805点
「専門分野」
 入管取次・ビザ申請、在留資格、永住・帰化、外国人問題、国際公法