目次
1,特定技能制度とは、どんな制度ですか?
特定技能制度とは、一定の専門性・技術性を有し即戦力となると考えられる外国人を受け入れることによって、人手不足が深刻となっている産業分野の人手不足に対応するために2019年に新たに創設された制度です。本制度の創設にあたっては、技能実習制度であった問題点の反省や単純労働者の受入・移民政策といった批判もあったため、制度設計は非常に緻密となっています。このような背景もあり、特定技能ビザの申請にあたっては、出入国在留管理庁に提出する書類は、他の就労ビザに比較して膨大な量となり、許可要件に則した書類収集や作成が必要となってきます。
2,特定技能外国人を派遣雇用できますか?
特定技能外国人の派遣雇用は、農業・漁業分野を除いて原則として認められていません。農業と漁業の分野では、他の産業分野と比べて、作業の繁忙期と閑散期が他の産業分野と比べて明確であり、また同じ農業や漁業分野であっても作物などによって繁忙期は異なります。このような農業と漁業の分野の性格から、両分野では特定技能外国人の派遣雇用が認められています。
「各分野の雇用形態一覧」
特定産業分野 | 雇用形態 |
介護分野 | 直接 |
ビルクリーニング分野 | 直接 |
素形材産業分野 | 直接 |
産業機械製造業分野 | 直接 |
電気・電子情報関連産業分野 | 直接 |
建設分野 | 直接 |
造船・船用工業分野 | 直接 |
自動車整備分野 | 直接 |
航空分野 | 直接 |
宿泊分野 | 直接 |
農業分野 | 直接・派遣 |
漁業分野 | 直接・派遣 |
飲食料品製造業分野 | 直接 |
外食業分野 | 直接 |
3,農業・漁業分野での派遣雇用の許可要件
上記2で検討した通り、農業分野と漁業分野では特定技能外国人を派遣雇用することが認められています。そして、特定技能外国人を派遣雇用する場合に特定技能ビザを取得するためには、派遣元企業及び派遣先企業の各々に課された要件を充足する必要があります。以下、詳しく検討していきます。
(1)派遣元企業の要件
特定技能外国人の派遣元企業として認められるためには、以下の派遣元企業の要件を充足している必要があります。農業分野の場合は、さらに独自の要件を充足する必要があります。また、以下の要件を充足した上で、出入国在留管理庁長官及び農林水産省の農業と漁業を管轄する行政機関の長との協議に基づき派遣雇用を許可される必要があります。
「派遣元企業の要件」
①農業・漁業の業務またはそれに関連する業務を行っていること ②地方公共団体または①に掲げる者が資本金の過半数を出資していること ③地方公共団体の職員または①に掲げる者もしくはその役員もしくは職員が役員であることその他地方公共団体または①に掲げる者が業務執行に実質的に関与していると認められる者 |
「農業分野に係る要件」
国家戦略特別区域法16条の5第1項に規定する特定機関(農業支援活動を行う外国人の受入を適正かつ確実に行うために必要なものとして政令で定める基準に適合する機関)であること |
(2)派遣先企業の要件
派遣元企業から特定技能外国人を受入れる派遣先企業は、特定技能外国人を直接雇用するわけではありませんが、以下の要件を充足している必要があります。
「派遣先企業の要件」
①労働、社会保険及び租税に関する法令を遵守していること ②1年以内に特定技能外国人と同種の業務に従事する労働者を非自発的に離職させていないこと ③1年以内に受入機関の責めに帰すべき事由により行方不明者を発生させていないこと ④欠格事由(5年以内に出入国・労働法違反がないこと等)に該当しないこと |
4,特定技能外国人支援義務は派遣元と派遣先のどちらが負いますか?
特定技能外国人支援義務は、派遣元企業が負うことになります。派遣形態においては、特定技能外国人を直接受け入れているのは、派遣元企業となります。派遣先企業と特定技能外国人との間には、直接の雇用関係はありません。よって、特定技能外国人の支援は派遣元企業が行うのが原則となります。
特定技能外国人を雇用する際には、特定技能外国人支援計画を作成し入管に提出する必要があります。この特定技能外国人支援計画は派遣元企業が作成し実施していく必要があります。派遣先企業は、この計画を作成し実施していく必要はありません。しかし、特定技能外国人支援計画を作成し実施していくためには、派遣先企業が提出する管理台帳が必要になるため、特定技能外国人を適切に管理していく必要があります。
5、特定技能協議会への登録は派遣元と派遣先のどちらが行いますか?
特定技能協議会への登録は派遣元企業が行います。特定技能外国人を雇用した場合は、それぞれの産業分野に設置された特定技能協議会に登録する必要があります。この登録は、特定技能外国人を受入れ後、4か月以内に行う必要があります。上記4で検討した通り、特定技能外国人を直接受け入れるのは派遣元企業であるため、派遣元企業がこの登録を行う必要があります。
6,特定技能制度と労働者派遣法のいずれが優先されますか?
特定技能外国人を雇用する際には、当然、労働関係法令が適用されます。特定技能外国人を派遣形態で雇用する場合は、労働者派遣法も適用されます。そして、同一事項につき労働者派遣法と入管法が定めているため競合する場合は、厳しく規定されている方が適用されます。
入管法は、特定技能外国人に日本で5年間の就労を認めています。他方、労働者派遣法は3年以上の派遣期間を認めていません。この場合は、厳しい規律を設けている労働者派遣法が適用されます。よって、派遣雇用できるのは3年間までであり、それ以上のさらに2年間の雇用を希望する場合は、直接雇用に切り替える必要があります。
また、労働者派遣法では、労働者を派遣できる派遣先は、派遣元企業の責任者が日帰りで対応できるエリアである必要があります。登録支援機関から特定技能外国人を派遣で受け入れる場合は、登録支援機関の対応可能エリアと派遣可能エリアの間に違いが生じます。この場合も、労働者派遣法が適用されます。
7,まとめ
特定技能外国人の派遣雇用は、農業・漁業分野を除いて原則として認められていません。例外として、特定技能外国人を派遣雇用する場合に特定技能ビザを取得するためには、派遣元企業及び派遣先企業の各々に課された要件を充足する必要があります。そして、特定技能外国人支援義務は、派遣元企業が負うことになります。 特定技能協議会への登録も派遣元企業が行います。
特定技能外国人を雇用する際には、当然、労働関係法令が適用されます。特定技能外国人を派遣形態で雇用する場合は、労働者派遣法も適用されます。そして、同一事項につき労働者派遣法と入管法が定めているため競合する場合は、厳しく規定されている方が適用されます。
「記事監修」 加納行政書士事務所 運営HP:ビザ申請サポートNavi https://visasupportnavi.net/ 代表 特定行政書士 加納 裕之 「学歴」 同志社大学大学院法学研究科公法学専攻博士前期課程修了(修士(法学)) 明治大学法科大学院修了 「資格」 行政書士(特定付記)、TOEIC805点 「専門分野」 入管取次・ビザ申請、在留資格、永住・帰化、外国人問題、国際公法 |