1,外国人ミュージシャンの日本公演に必要なビザは何ですか?

 外国人ミュージシャンを、日本公演を目的として招聘する場合に必要なビザは、興行ビザ(在留資格「興行」)1号または2号になります。興行ビザは、興行活動の内容によって1~4号に分けられています。興行ビザ1号と2号は「演劇、演芸、歌謡、舞踊または演奏の興行に係る活動」を行う場合に必要となるビザです。興行ビザ1号と2号は、興行活動を行う施設の規模などによって分かれてきます。以下では、外国人ミュージシャンの日本公演に必要なビザについて、詳しく検討していきます。

2,興行ビザとはどんなビザですか?

 興行ビザとは在留資格「興行」のことで、外国籍の方が日本で興行を行う場合に必要とされるビザのことです。興行とは「特定の施設において、公衆に対して映画、演劇、スポーツ、演芸又は見世物を見せ、または聞かせる」こと、と定義されます。このように、興行ビザは外国人が日本で芸能活動やスポーツなどのエンターテイメント業界で興行活動を行うことを認めています。このうち興行ビザ1号と2号は、演劇・演芸・舞踊・演奏などの興行活動を、外国人が日本で行う場合に必要となるビザです。

 興行ビザは、審査基準が厳しくまた申請方法も難解なので、日本の在留資格の中でも取得が難しいビザとなります。法務省の統計では、興行ビザを有している外国人は、1500~2000人程度とされています。興行ビザを申請する際には、活動する種類や興行規模、取得要件に注意を払って申請することが重要です

3,興行ビザ1号と2号の違いは何ですか?

 興行ビザの1号と2号は、興行活動を行う施設の規模や興行活動の主催者、飲食物の提供の有無などの違いによって、1号と2号いずれの興行ビザを取得すべきかが異なってきます。興行ビザ1号と2号には、具体的には以下のような違いがあります。

(1)1号

 興行ビザ1号で認められている興行活動は、演劇・演芸・舞踊・演奏といった興行が認められています。興行ビザ2号との違いは、興行ビザ1号は2号と比較して、小規模な施設での興行活動を認めている点にあります。興行ビザ1号は、キャバレーやクラブといった施設での興行活動を認めているため、許可要件が厳格に定められ、興行ビザの中でも特に取得が難しいビザになります。この背景には、興行ビザを取得して不法就労や不法在留さらには人身売買といったケースが起こり、審査が厳格化されました。

 興行ビザ1号で認められる活動には、以下のような活動が挙げられます。

・ライブハウスやレストランでのコンサート
・キャバレーやクラブでのパフォーマンス
・ショーパブでのダンスショー

(2)2号

 興行ビザ2号で認められている興行活動は、演劇・演芸・歌謡・舞踊・演奏といった興行活動です。1号との違いは、興行ビザ2号は1号と比較して、大規模な施設での興行活動を認めている点になります。

 具体的には、興行ビザ2号は、以下の要件に該当する必要があります。

・国、地方公共団体の機関や特殊法人が主催する演劇・演芸・歌謡・舞踏・演奏の興行および学校教育法に規定する学校で行われる演劇などの興行に関わる活動
・文化交流の目的で、国・地方公共団体・独立行政法人の援助を受けて設立された本邦の公私の機関が主催する演劇・演芸・歌謡・舞踏・演奏の興行に関わる活動
・敷地面積が10万平方メートル以上の施設で行われる演劇・演芸・舞踏・演奏の興行に関わる活動
・客席に飲食物を有償で提供せず、客の接待をしない施設(営利を目的としない本邦の公私の機関が運営するもの、または客席の定員が100人以上に限る)において演劇・演芸・歌謡・舞踏・演奏に関わる活動
・当該興行により得られる報酬が1日につき50万円以上(団体で行う場合は、当該団体が受ける総額)かつ、15日を超えない期間で行われる演劇・演芸・歌謡・舞踏・演奏の興行に関わる活動 ・イベント・フェス

 興行ビザ2号で認められる活動には、以下のような活動が挙げられます。

・自治体や学校が主催する演劇・演奏・パフォーマンス
・コンサートホールでのコンサート・演劇・ミュージカル
・テーマパークでのパフォーマンス

4,外国人ミュージシャンの興行ビザの許可要件は何ですか?

(1)興行ビザ1号

興行ビザ1号は、キャバレーやクラブといった施設での興行活動も含まれるため、許可要件は興行ビザ2号と比較しても厳格に定められています。よって、興行ビザの中で最も取得が難しいビザとなります。興行ビザ1号の許可要件は以下の通りです。

学歴または経歴外国の教育機関において、活動の係る科目を2年以上の期間を専攻していたこと
報酬契約書などで月額20万円以上の報酬を支払う義務を負うことが明示されていること(契約期間や活動内容により異なる)
招聘機関・外国人の興行に係る義務について通算して3年以上の経験を有する経営者又は管理者がいること
・5名以上の職員を常勤で雇用していること ・招聘機関の経営者や常勤の職員が違法行為を行った経歴がなく、暴力団員などでないこと
・過去3年間に締結した興行契約に基づき、興行の在留資格を持って在留する外国人に対して支払義務を負う報酬の全額を支払っていること
施設・従業員が5名以上いること
・13㎡以上の舞台がある、9㎡以上の出演者用控室があること
・常勤の従業員が指定される違法行為を行った経歴がなく、暴力団員などではないこと
・不特定多数の客を対象として外国人の興行として行う施設であること
・専ら客の接待に従事する従業員が5名以上、興行活動を行う外国人が客の接待に従事するおそれがないこと

(2)興行ビザ2号

 興行ビザ基準2号を取得するためには、以下の許可要件を充足している必要があります。活動内容、施設、報酬などについて要件が定められています。

「活動内容の制限」・地方公共団体の機関、特殊法人が主催する学校、専修学校、各種学校などで行われる演劇などの興行に係る活動
・文化交流の目的で、国、地方公共団体、独立行政法人の援助を受けて設立された公私の機関が主催する演劇、演芸、歌謡、舞踊、演奏の興行に係る活動
・外国の文化を主題とする演劇、演芸、歌謡、舞踏、演奏の興行を常時行っている施設の興行活動
「施設」・敷地面積10万平方メートル以上の施設で行われる興行
・客席定員100人以上で飲食を提供しない施設で行う興行
「報酬」・報酬が50万円以上で15日以内の滞在で行う興行

上記の他にも、興行の収支計画が明確になっていない場合は、入管の許可が下りない危険性もあります。興行に係る収支計画は明確にしておく必要があります。

5,外国人ミュージシャンの興行ビザ取得に必要な書類は何ですか?

 外国人ミュージシャンが日本公演を目的として興行ビザを申請する際に必要となる書類は以下の通りです。

(1)興行ビザ1号

①在留資格認定証明書交付申請書
②写真(縦4cm×横3cm)
③返信用封筒
④申請人の経歴書及び活動に係る経歴を証する文書
⑤登記事項証明書
⑥直近の決算書
⑦その他契約機関の概要を明らかにする資料
⑧営業許可証の写し
⑨施設の図面(間取りなどが記載されていもの)
⑩施設の写真(客席、控室、外観など)
⑪興行に係る契約書の写し
⑫申請人の日本での具体的な活動の内容、期間、地位及び報酬を証する文書
⑬契約機関の経営者(又は管理者)及び常勤の職員(5名以上雇用していることが必要)の名簿
⑭契約機関の経営者(又は管理者)が興行に係る業務を通算して3年以上経験していることを証する資料
⑮申立書
⑯契約機関が過去3年間に締結した興行契約に基づいて興行の在留資格を持って在留する外国人に対して支払義務を負う報酬の全額を支払っていることを証する次のいずれかの文書
・興行契約に係る契約書の写し
・上記外国人が報酬を受けたことを証する領収書、銀行口座への振込記録(写し)
・非居住者
・外国法人の所得についての所得税徴収高計算書(納付書)等の納税関係書類 ・決算書及び法人税申告書(写し)

(2)興行ビザ2号

①在留資格認定証明書交付申請書
②写真(縦4cm×横3cm)
③返信用封筒
④申請人の経歴書及び活動に係る経歴を証する文書
⑤登記事項証明書
⑥直近の決算書
⑦その他招聘機関の概要を明らかにする資料
⑧従業員名簿
⑨営業許可書の写し
⑩施設の図面(間取りなどが記載されているもの)
⑪施設の写真(客席、控室、外観など)
⑫興行に係る契約書の写し
⑬申請人の日本での具体的な活動内容、期間、地位及び報酬を証する文書

6,興行ビザ取得までの手順は、どうなりますか?

 興行ビザ取得までの流れは、以下のように進みます。

手順1
在留資格認定証明書交付申請
 まずは、在留資格認定証明書交付申請を行います。申請は、招聘機関や契約機関の所在地を管轄する地方出入国在留管理局で行います。日本で行う手続きとなるため、代理人が申請する場合は、申請の際に代理人の身分を証明する書類(会社の身分証明書など)が必要となります。多くは、招聘機関が代理人となって申請しています。
 興行ビザの審査期間は、およそ1~2か月程度の時間を必要とします。よって、申請の準備には、必要書類の作成や収集に加えて、この審査期間も考慮に入れる必要があります。来日予定の3か月前から申請が可能となります。来日スケジュールに合わせて、申請の準備を行うことが大切です。
 なお、在留資格認定証明書の有効期間は3か月です。3か月を過ぎた場合は、在留資格認定証明書は失効してしまいます。よって、在留資格認定証明書の交付が早すぎた場合は、来日までに在留資格認定証明書が失効してしまう危険があるので注意が必要です。
 審査の結果、許可されると在留資格認定証明書が交付されます。許可要件を充足し必要書類に不備がない場合は、イベントや撮影のスケジュールを考慮して、早めに在留資格認定証明書を交付してもらえる場合もあります。しかし、時間的余裕を持って申請準備を行うことが重要です。
手順2
査証申請
 申請が許可された場合は、在留資格認定証明書が入管から代理人の下に郵送されてきます。代理人は、この在留資格認定証明書を外国在住の申請人の下に郵送してください。来日スケジュールには、この郵送に必要な時間を考慮に入れることも重要です。 査証の申請は、申請人が在住する国の日本国大使館又は領事館で行います。在留資格認定証明書交付申請と異なり、査証は申請人本人が行う必要があります。よって、申請人は日本から送られてきた在留資格認定証明書を持参して、査証の申請を行ってください。 大使館の審査に必要な期間は、問題がない場合は1週間程度です。許可が下りた場合は、パスポートに「興行」のシールは貼られた状態で、返還されます。
「必要書類」
・在留資格認定証明書の原本
・パスポート
・写真
・その他の身分証明書
・ビザの申請書
手順3
入国
 在留資格認定証明書の有効期間は3か月です。よって、3か月以内に入国する必要があります。在留資格認定証明書と「興行」と書かれたシールが貼られたパスポートを持参してください。
 なお、上陸の許否」が入管法第5条に定められています。そのため、申請人に過去の薬物犯罪歴がある場合は、日本に入国することができません。上陸許可の特例が認められた場合に入国できているケース(人気ミュージシャン)もありますが、あくまでも例外的なケースです。薬物犯罪は、原則として上陸拒否の対象となります。例外は、認められることは無いと考えたほうが良いと考えます。上記特例は、例外が認められるまで、何度か申請し不許可とされて、ようやく例外が認められています。
「記事監修」
加納行政書士事務所
運営HP:ビザ申請サポートNavi https://visasupportnavi.net/

  代表
特定行政書士 加納 裕之  
「学歴」
 同志社大学大学院法学研究科公法学専攻博士前期課程修了(修士(法学))
 明治大学法科大学院修了  
「専門分野」
 入管取次・ビザ申請、在留資格、永住・帰化、外国人問題、国際公法