帰化申請にはどんな失敗事例がありますか?
法務省のデータによれば、日本の国籍を取得するための帰化申請は、90%を超える高い許可率で推移しています。しかし、この数字の裏側には、水面下で処理されている多くの「トラブル」や「失敗事例」が隠されています。
「なぜ許可率が高いのにトラブルが多いのか?」—それは、法務局との事前相談の段階で要件を満たさないとして「門前払い」になるケースや、審査中に「取下げ」を促されるケースが多々あるからです。法務局は基本的に不許可を出したくないため、不許可になる可能性が高いと判断した場合、申請者に辞退や取下げを強く勧める傾向があるのです。
本記事では、この高い許可率の裏側にある、申請前・申請中・申請後の各フェーズで申請者が陥りやすい具体的なトラブル事例を徹底解説し、成功に導くための対策をご紹介します。
目次
第1章:高い許可率の裏側にある「見えない失敗事例」の実態
1.帰化申請の許可率が高い理由と実態
法務省の公表データを見ると、帰化許可者数に対する不許可者数の割合は非常に低く、確かに許可の割合は90%を超えています。しかし、この数字はあくまで「正式な申請手続きが完了し、最終的に許可/不許可の判断が下された件数」に基づいています。
実態としては、以下の2つのフェーズで多くの申請希望者がふるいにかけられています。
フェーズ | 発生する実質的な失敗事例 | 結果(統計に現れにくい) |
事前相談・書類収集段階 | 要件不備、書類不備が発覚 | 法務局から「申請を見送るべき」と門前払いを勧告される |
申請受理後の審査段階 | 状況変化、追加資料の未提出など | 不許可になる前に申請の取下げを強く勧められる |
役所は一度受理した案件に不許可を出すことを避けたがるため、許可の可能性が低い場合は、申請者自身に「辞退」や「取下げ」を促します。これにより、統計上の不許可件数は少なく抑えられているのです。
第2章:帰化申請をする以前や申請時に起こりがちな失敗事例
この段階のトラブルは、主に「要件の理解不足」と「書類準備の不備・遅延」から生じます。
(1)そもそも帰化申請の条件を満たしていない
帰化申請は、単純に日本に長く住んでいるというだけでは許可されません。最低限満たすべき6つの要件(一般条件)があり、特に以下の要件でトラブルが生じやすいです。
A. 居住要件に関する誤解
「引き続き5年以上日本に住んでいること」という要件は、連続性が重要視されます。
- トラブル事例: 5年以上日本に住んでいるが、その間に1回につき3ヶ月以上の長期出国や、1年間で合計100日以上の細切れの出国があったため、「引き続き」の要件がリセットされていることに気付かなかった。
- 対策: 過去の出入国履歴を細かく確認し、長期出国がある場合は、その後の再度の「引き続き」の期間を待ってから申請する必要があります。
B. 生計要件に関する誤解
「自己または生計を一にする配偶者、その他の親族の資産または技能によって生計を営むことができること」という要件は、「世帯単位」で判断されます。
- トラブル事例: 申請者自身の収入は十分だが、配偶者がいる世帯の場合、世帯全体の支出に対して収入が不安定(毎月赤字で預貯金を取り崩している)と判断され、許可の見込みがないと指摘される。または、転職直後で勤続年数が短く、収入の安定性に疑念を持たれる。
- 対策: 申請時点で世帯単位での安定した生計が求められます。単身者の場合、一般的に年収300万円程度が目安とされますが、扶養家族がいる場合はそれに見合った収入が必要です。転職直後の場合は、一定期間の勤続を待つことが賢明です。
(2)法務局とのやり取りと書類収集における時間管理の失敗
帰化申請は、必要書類が非常に多く、その多くに「有効期限」が設定されています(例:発行から3ヶ月以内)。
- トラブル事例: 法務局との事前相談の予約が多忙でなかなか取れず、ようやく書類チェックの予約が取れたときには、先に取得していた公的書類の有効期限が切れてしまう。その結果、再取得の手間と費用がかさみ、手続きが遅延する。
- 対策: 帰化申請は、仕事の合間を縫って「早め早め」に進める意識が不可欠です。書類収集の優先順位と有効期限をリスト化し、特に本国から取り寄せる書類(取得に時間がかかるもの)は、最初に手配するようにしましょう。
(3)虚偽申請・隠蔽による信用失墜
意図的であるかどうかにかかわらず、申請内容に虚偽や事実の隠蔽があった場合、申請者自身の「信用性」が失われ、不許可に直結します。
- トラブル事例: 過去の軽微な交通違反(スピード違反や駐禁など)を申告書に記載し忘れた。または、過去の在留資格に関する違反(オーバーステイ、資格外活動違反など)の事実を隠そうとした。
- 対策: 法務局は警察や自治体、入管などの情報と照合して申請内容を調査します。隠し事はいずれ発覚します。たとえ不利な事実であっても正直に申告し、その後の改善点を説明することが、信用回復の唯一の方法です。
第3章:帰化申請が受理された後に起こりがちな失敗事例
申請が受理されても、許可が下りるまでの1年〜1年半は審査期間中です。この期間の行動が不許可を招く最大の原因となります。
(1)審査期間中の「素行要件」を揺るがす行為
「素行要件」とは、善良な国民としての振る舞いをしているかという点であり、審査期間中は特に厳しく見られます。
A. 交通違反や犯罪行為の発生
- トラブル事例: 申請受理後、飲酒運転や一発免停になるような重大なスピード違反(赤切符)を起こした。または、軽微であっても短期間に複数回(3回以上など)の交通違反(青切符)を繰り返した。
- 対策: 審査期間中は、日々の運転を含め、法律を遵守した模範的な生活を送ることが絶対条件です。特に赤切符レベルの違反は即座に不許可につながる可能性が高く、青切符であっても回数が多いと素行不良と見なされます。
B. 税金・年金・社会保険料の未納・遅延
- トラブル事例: 会社経営者の場合、法人の社会保険料の滞納がある。個人事業主や配偶者が国民年金の過去2年間の納付状況に未納期間がある。または、審査中に住民税の納付をうっかり忘れた。
- 対策: 税金や公的保険料の納付状況は、日本国民としての義務を果たす意思があるかを示す最重要項目です。申請時だけでなく、審査期間中も漏れなく、期限内に納付を続ける必要があります。
(2)申請内容の変更報告漏れ
申請書類に記載した情報に変更があった場合、それを法務局に報告することは申請者の義務です。
- トラブル事例: 申請後に転職したが、その報告を怠った。または、引越しをしたが住所変更の報告が遅れた。特に、転職を繰り返すと、生計の安定性がないと見なされ、審査に大きく影響します。
- 対策: 婚姻、離婚、出生、死亡、転職、退職、引越し、長期出国など、申請内容に関わる重要事項に変更があった場合は、速やかに法務局へ報告を行わなければなりません。報告を怠ると、虚偽申請・隠蔽と疑われ、不許可の原因となります。
(3)法務局の指示・要求への不対応
審査過程で、法務局の担当官は追加の資料提出や説明(面接)を求めることがあります。
- トラブル事例: 法務局から**追加の資料提出(例:送金の出所を証明する書類)**を求められたが、多忙を理由に提出を拒否、または期限までに対応しなかった。
- 対策: 法務局からの要求は、審査を完了させるために必要なものです。必ずその指示に従い、誠実に対応することが求められます。無視や拒否は、「帰化への熱意不足」または「審査協力の拒否」と見なされ、不許可の最も分かりやすい原因となります。
第4章:帰化申請成功のための3つの鍵
帰化申請を無事に成功させるためには、以下の3つの要素を徹底することが重要です。
鍵1:申請要件を客観的に自己評価する
「知人が許可されたから大丈夫」という安易な考えは危険です。居住期間、生計の安定性、素行履歴(交通違反の回数など)について、法務局の厳格な基準に照らして客観的に自己評価してください。少しでも不安要素がある場合は、専門家へ相談するか、不安要素が解消されるまで申請を延期する勇気が必要です。
鍵2:パーフェクトな書類準備と時間管理
帰化申請は、書類準備が全てと言っても過言ではありません。
- 必須事項の徹底: 全ての書類の有効期限を把握し、期限切れにならないよう取得スケジュールを管理する。
- 正確性の確保: 履歴書、動機書、家族関係など、全ての情報に虚偽・矛盾がないかを何度も確認する。
鍵3:審査期間中の「模範的日本人」としての生活
許可が下りるまでは、審査期間中であることを常に意識して生活してください。
- 法律遵守: 交通違反を含む全ての法律を厳守する。
- 義務の履行: 税金、年金、健康保険料の支払いを滞りなく行う。
- 情報共有: 住所、職業、家族構成など、申請内容に変更があった場合は直ちに法務局へ報告する。
これらのトラブル事例とその対策を深く理解し、万全の体制で臨むことが、帰化申請成功への最も確実な道となります。
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![]() 「記事監修」 加納行政書士事務所 運営HP:ビザ申請サポートNavi https://visasupportnavi.net/ 代表 特定行政書士 加納 裕之 「学歴」 同志社大学大学院法学研究科公法学専攻博士前期課程修了(修士(法学)) 明治大学法科大学院修了 「資格」 行政書士(特定付記)、TOEIC805点 「専門分野」 入管取次・ビザ申請、在留資格、永住・帰化、外国人問題、国際公法 |