社会保障協定とは?外国人従業員の年金二重加入を防ぐ仕組み【完全ガイド】
目次
はじめに
近年、日本で働く外国人労働者は急増しており、企業としても外国人従業員を雇用する機会が増えています。その中で大きな問題となるのが 「年金や社会保険の二重加入」 です。外国人従業員は日本の社会保険制度に加入する義務がありますが、本国の制度にも同時に加入しなければならないケースがあり、本人・企業双方にとって大きな負担となってきました。
この問題を解決するために導入されているのが 「社会保障協定」 です。本記事では、社会保障協定の仕組みやメリット、対象国、実務での注意点について、詳しく解説します。
1.社会保障協定とは何か?
社会保障協定とは、日本と特定の国との間で締結される 二国間の国際協定 で、主に以下の2つの目的を持っています。
- 年金保険料の二重加入防止
日本で働く外国人従業員が、日本と母国の両方で年金保険料を支払う事態を回避します。 - 年金加入期間の通算
日本と母国の双方で働いた期間を合算し、将来の年金受給資格を得やすくします。
例えば、アメリカから日本に駐在する従業員は、協定がなければ 日本の厚生年金と米国の社会保障制度の両方に加入 しなければならず、経済的負担が非常に大きくなります。しかし、社会保障協定により、原則としてどちらか一方の制度にのみ加入すればよい仕組みになっています。
2.社会保障協定が必要となる背景
(1)外国人労働者の増加
法務省の統計によると、日本で働く外国人労働者数は年々増加し、2023年時点で 約200万人 を超えています。これに伴い、年金や社会保険に関するトラブルも増加しました。
(2)国際的な人材流動化
グローバル経済において、人材の国際移動は当たり前になっており、駐在員・技能実習生・特定技能人材など、さまざまな形で外国人が日本で働いています。その際、 本国でも年金制度が存在するため、二重負担のリスク が発生します。
(3)企業側の負担軽減
社会保険料は従業員だけでなく 企業も半分を負担 する仕組みです。そのため、二重加入が発生すると企業コストが大きく膨らみ、国際競争力の低下につながる恐れがありました。
3.社会保障協定の主な内容
社会保障協定の内容は国ごとに多少異なりますが、大きく以下の仕組みが導入されています。
(1)二重加入防止ルール
- 原則:勤務国の制度に加入する。
- 一時的な派遣(通常5年以内)の場合:派遣元の国の制度にのみ加入できる。
(2)年金加入期間の通算
- 日本での加入期間と相手国での加入期間を合算可能。
- 受給資格を得やすくし、老後の生活を安定させる。
(3)その他の社会保障分野
一部の協定では、医療保険・雇用保険・労災保険に関する取り決めも含まれます。
4.社会保障協定を締結している国一覧(2025年時点)
2025年9月時点で、日本が社会保障協定を締結している国は以下の通りです。
- アメリカ
- イギリス
- ドイツ
- フランス
- カナダ
- オーストラリア
- 韓国
- 中国
- インド
- イタリア
- スペイン
- ベルギー
- オランダ
- スイス
- スウェーデン
- フィリピン
- チェコ
- ハンガリー
- アイルランド
- その他(協定交渉中の国もあり)
(最新情報は日本年金機構の公式ページをご確認ください → 日本年金機構:社会保障協定)
5.社会保障協定のメリット
(1)外国人従業員にとってのメリット
- 年金保険料の二重払いを避けられる。
- 母国と日本の年金加入期間を通算できる。
- 将来の年金受給資格が確保されやすい。
(2)企業にとってのメリット
- 保険料負担が軽減される。
- 国際的な人材採用が進めやすくなる。
- 外国人従業員への福利厚生が充実し、安心して雇用できる。
6.社会保障協定を利用するための手続き
(1)適用証明書の取得
- 日本から海外に派遣する場合は、日本年金機構 に「適用証明書」を申請します。
- 証明書を現地の社会保障当局に提示することで、現地制度の加入が免除されます。
(2)年金通算の申請
- 将来、年金を受給するときに 通算制度の利用申請 を行います。
- 日本と相手国の年金機関が連携し、加入期間を合算して審査します。
(3)企業の対応
- 外国人従業員を雇用する際、対象国であれば協定の適用可否を必ず確認。
- 必要に応じて証明書の取得をサポートすることが求められます。
7.社会保障協定がない国の場合
社会保障協定が未締結の国から来日する外国人従業員については、日本の年金制度に加入しなければなりません。その場合、将来帰国しても日本で支払った年金を受け取れない可能性があります。
ただし、脱退一時金制度 により、帰国時に一定の条件を満たせば保険料の一部を払い戻しできます。(詳細: 日本年金機構|脱退一時金制度 )
8.実務での注意点
- 協定の内容は国ごとに異なるため、必ず対象国の規定を確認すること。
- 適用証明書の申請は余裕を持って行うこと(発行までに時間がかかる)。
- 協定未締結国の従業員には、脱退一時金制度について説明しておくと良い。
- 人事・労務担当者は、外国人従業員の社会保険加入状況を常に把握しておくこと。
Q&A よくある質問
Q1:社会保障協定がある国から来た外国人は、日本の年金に加入しなくてもいいのですか?
A:一時的な派遣など条件を満たす場合は免除されますが、永住や長期就労を目的とする場合は日本の制度に加入する必要があります。
Q2:協定を利用するには誰が申請するのですか?
A:通常は派遣元の企業や本人が申請します。必要に応じて社会保険労務士など専門家のサポートを受けるのも有効です。
Q3:脱退一時金は全員がもらえますか?
A:受給には「6か月以上の加入」「帰国後2年以内の申請」など条件があります。必ず全員が受け取れるわけではありません。
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まとめ
社会保障協定は、外国人従業員の 年金二重加入を防ぎ、年金加入期間を通算できる仕組み です。これは従業員本人にとって老後の安心をもたらすだけでなく、企業にとってもコスト負担を軽減し、国際人材の受け入れを円滑にする大きなメリットがあります。
外国人を雇用する企業は、対象国との協定有無や手続きについて正しく理解し、従業員に適切な案内を行うことが重要です。最新情報は必ず外務省や日本年金機構の公式ページを確認し、必要に応じて専門家に相談することをおすすめします。
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![]() 「記事監修」 加納行政書士事務所 運営HP:ビザ申請サポートNavi https://visasupportnavi.net/ 代表 特定行政書士 加納 裕之 「学歴」 同志社大学大学院法学研究科公法学専攻博士前期課程修了(修士(法学)) 明治大学法科大学院修了 「資格」 行政書士(特定付記)、TOEIC805点 「専門分野」 入管取次・ビザ申請、在留資格、永住・帰化、外国人問題、国際公法 |