目次
1,永住ビザ(在留資格「永住者」)の許可要件は何ですか?
永住権を取得する為に充足しなければならない入管法上の許可要件は、以下の3つです。
・素行が善良であること ・独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること ・その者の永住が日本国の利益に合すると認められること |
(1)素行が善良であること
素行が善良であるとは、法律を遵守し日常生活においても社会的に非難されることの無い生活を営んでいること、を意味します。つまり、罰金刑や懲役刑などの刑事罰を科せられたことがないことが必要です。飲酒運転などの重大な交通違反は刑事罰となるので素行善良要件に抵触します。軽微な交通違反の場合でも、過去5年間のうち5回以上の交通違反があった場合、素行善良であるとは認められません。
過去に刑事罰を科されている場合は、処分の日から相当程度の期間をあけて申請しなければ、許可される見込みはありません。相当程度の期間とは具体的には、懲役刑の場合は出所後10年経過、執行猶予の場合は猶予期間の経過後5年経過、罰金刑の場合は刑の執行の日から5年経過している必要があります。
(2)独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること
独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有することとは、日常生活において公共の負担とならず、その有する資産又は技能等からみて将来において安定した生活が見込まれることを意味します。そして、この独立生計要件を充足していると認められるためには、一定の収入があることが必要です。この基準としては単身世帯の場合は年収300万円以上が必要となります。また、扶養者がいる場合には扶養者1人につき60万円程度プラスして考える必要があります。
例えば、夫と妻の二人世帯の場合で妻が夫の扶養に入っている場合は、年収360万円程度の収入を得ていることが望ましいいという事になります。独立生計要件の判断は世帯年収を基準になされますので、妻が夫の扶養に入っておらず収入を得ている場合には、妻の年収も考慮に入れることができます。しかし、妻の収入がアルバイトである場合には世帯年収として考慮することは出来ません。
この独立生計要件の充足に必要な年収を得ているかは、身分系ビザ(配偶者ビザなど)から永住申請する場合は直近3年分の年収が審査の対象となり、就労ビザから永住申請する場合は直近5年分の年収が審査の対象となります。そして、独立生計要件を充足しているかの判断は、課税証明書に基づいて判断されます。
(3)その者の永住が日本国の利益に合すると認められること
その者の永住が日本国の利益に合すると認められる為には、以下の①~④の要件を充足していることが求められます。
①居住要件
原則として「引き続き」10年以上日本に在留している必要があります。また、この10年間のうち、就労系の在留資格(技能実習及び特定技能1号を除く)又は居住資格をもって「引き続き」5年以上在留している必要があります。
「引き続き」とは在留が継続していることを意味します。出国日数が多い場合は「引き続き」とは認められなくなる可能性があります。具体的には連続して90日以上、また1年間で100日以上出国していた場合は、「引き続き」とは認められなくなる可能性があります。この場合、「引き続き」10年以上在留しているか否かの計算はリセットされます。長期出国の時点から計算し直し、という事になります。
②公的義務を適正に履行していること
公的義務(納税、年金や社会保険料の納付、入管法に定める届出義務など)を適正に履行していることが必要です。公的義務を履行していることの証明として、住民税では直近5年分(日本人の配偶者等の場合は、直近3年分)、年金では直近2年分、社会保険では直近2年分の証明書を提出する必要があります。税金、年金、社会保険の未納・滞納があった場合は許可されることはありません。審査対象期間のうち、支払いの遅滞が1回でもあった場合でも不許可となります。
会社員の場合は給料から天引きされますが、個人事業主の場合は注意が必要となります。会社員の場合でも、転職して会社が変わっている場合は転職期間中の支払状況に注意する必要があります。
③最長の在留期間であること
現在有している在留資格が、出入国管理及び難民認定法施行規則別表第2に規定されている最長の在留期間である必要があります。最長の在留期間は5年ですが、在留期間「3年」を有する場合は、当面、最長の在留期間をもって在留しているものとして取り扱うこととされています。
④公衆衛生上の観点から有害となるおそれがないこと
2,申請人が日本人の配偶者の場合は永住許可要件が緩和されますか?
(1)「原則10年在留に関する特例」
永住申請の許可要件として上記1(3)①で検討した通り、居住要件として「原則10年在留」している必要があります。もっとも、この「原則10年在留」要件には特例があります。日本との関係が特に深い外国人は、この特例が適用され、10年以上日本に在留していなくても永住申請することが認められています。例えば、日本人の実子が永住申請する場合は、1年以上日本に在留している場合には居住要件を充足することができます。
(2)日本人の配偶者の場合の特例
配偶者ビザ(在留資格「日本人の配偶者等」)を保有している、日本人と結婚した外国人配偶者は、就労ビザなどを有している外国人が永住申請する場合と比べ、以下のように許可要件が緩和されています。
①「日本人の配偶者の場合の居住要件」
実態を伴った結婚生活が3年以上継続し、かつ、引き続き1年以上本邦に在留していること |
永住許可要件の1つに居住要件というものがあります。この居住要件を充足するためには、原則として「引き続き10年以上」日本に住居を有していることが必要です。これに対し、在留資格「日本人の配偶者等」を有している外国人の場合は、3年以上の「実態を伴った婚姻生活」がある場合は、1年以上日本に引き続き在留している場合は、居住要件を充足することが出来ます。なお、日本人の実子の場合は、1年以上引き続き日本に在留している場合は、居住要件を充足することが出来ます。 |
②「実態を伴った婚姻生活」
配偶者ビザ外国人が永住許可要件の緩和を受けるためには、実態を伴った婚姻生活を送っている必要があります。この実態を伴った婚姻生活とは、同居を伴う婚姻生活を意味します。したがって、法律上結婚はしているが、別居しているなど婚姻の実態が認められない場合は該当しません。 実態を伴った婚姻生活がない場合は、永住申請はもちろん配偶者ビザの更新も不許可になります。なお、夫婦の双方に仕事があり、一方が単身赴任する必要があるなど、別居に合理的な理由がある場合は、この限りではありません。 |
③就労ビザで、婚姻生活を3年以上継続し引き続き1年以上日本に住んでいる場合
日本人と結婚し、婚姻生活を3年以上継続し引き続き1年以上日本に住んでいるが、配偶者ビザを取得しないで就労ビザで日本に在留している場合でも、実態を伴った結婚生活が3年以上継続し、かつ、引き続き1年以上本邦に在留していること、という居住要件を満たすことは可能です。 |
3,日本人配偶者と別居している場合でも永住申請できますか?
(1)特例適用の可能性
日本人配偶者と別居している場合は、上記2(2)②で検討した「実態を伴った婚姻生活」が認められるか否かに関わる問題となります。婚姻関係は形式的に結婚していれば良いのではなく、原則として同居を伴った婚姻生活であることが必要とされます。したがって、別居している場合は、日本人の配偶者としての特例の適用を認めるか否かの審査は厳しくなることは避けられません。もっとも、別居している場合でも、単身赴任する必要があるなど別居に合理的な理由がある場合は、実態を伴った婚姻生活を認められる可能性があります。
(2)婚姻関係が破綻している場合
すでに婚姻関係が破綻しているため別居に至っている場合は、日本人の配偶者という身分をもって永住申請するのではなく、個人としての資格に基づき原則通りの申請を行うことが好ましいといえます。この場合は、原則通り「原則10年在留」要件を充足する必要があります。
別居している場合は、その理由を説明する必要があります。婚姻関係が破綻しているにもかかわらず、その事情を隠したり良好に見せかけた場合は、虚偽申請となる危険性があります。虚偽申請となった場合は不許可になることはもちろん、以後の申請も厳しくなってきます。
「記事監修」 加納行政書士事務所 運営HP:ビザ申請サポートNavi https://visasupportnavi.net/ 代表 特定行政書士 加納 裕之 「学歴」 同志社大学大学院法学研究科公法学専攻博士前期課程修了(修士(法学)) 明治大学法科大学院修了 「資格」 行政書士(特定付記)、TOEIC805点 「専門分野」 入管取次・ビザ申請、在留資格、永住・帰化、外国人問題、国際公法 |