農業分野で働ける就労ビザ(在留資格)はありますか?
目次
1,農業分野で働ける就労ビザは何ですか?
農業分野で働ける就労ビザとしては、以下の3種類の在留資格を挙げることができます。なお、「定住者」や「永住者」、「日本人の配偶者等」、「永住者の配偶者等」は就労制限がないため働くことができますが、身分系の在留資格であるため、本稿では割愛いたします。
(1)技能実習制度
在留資格 | 技能実習 |
目的 | 実習目的 |
在留期間 | 最長5年 ※第3号技能実習の場合、4年目の実習開始時に1か月以上帰国させる必要があります。 |
就労可能な業務の範囲 | ・耕種農業(「施設園芸」「畑作・野菜、果樹」) ・畜産農業(「養豚」「養鶏」「酪農」) ※農作業以外に、農畜産物を使用した製造・加工の作業の実習も可能です。 |
外国人材の受入れ主体 | 実習実施者(農業者など) ※農協が受入れ主体となり、組合員から農作業を請け負って実習を実施することもできます。 |
(2)特定技能制度
在留資格 | 特定技能 |
目的 | 就労目的 |
在留期間 | 通算で最長5年 |
就労可能な業務の範囲 | ・耕種農業全般 ・畜産農業全般 ※日本人が通常従事している関連業務(農畜産物の製造・加工、運搬、販売の作業、冬場の除雪作業など)に付随的に従事することもできます。 |
技能水準 | 受入れ分野で相当程度の知識あるいは経験を必要とする技能(一定の専門性・技能が必要です) ※業所管省庁が定める試験などにより確認が必要です。ただし、3年の技能実習を修了していれば試験が免除されます。 |
日本語能力の水準 | ある程度の日常会話ができ、生活に支障がない程度の能力を有することが基本 ※試験などにより確認します。ただし、技能実習(3年)を修了していれば試験は免除されます。 |
外国人材の受入れ主体 | 農業者や農協、農協出資法人、特区事業を実施している事業者などの派遣事業者 |
(3)国家戦略特区(農業支援外国人受入事業)
国家戦略特区事業は、令和元年6月11日に開催された国家戦略特区諮問会議で特定技能制度へ段階的に移行することが決定されています。これにより令和2年3月31日をもって、特区事業による外国人材の受入れは停止されました。もっとも、特区事業による在留は通算3年に達するまで問題ありません。
在留資格 | 特定活動 |
目的 | 就労目的 |
在留期間 | 通算で最長3年 |
就労可能な業務の範囲 | ・耕種農業全般 ・畜産農業全般 ※農作業以外に、農畜産物等を使用した製造・加工、運搬・陳列・販売の作業も可能です。ただし、農作業が主体でなければなりません。 |
技能水準 | 農業支援活動を適切に行うために必要な知識・技能(一定の専門性・技能が求められます) ※技能実習(3年)を修了しているか、農業全般についての試験に合格している場合に該当します。 |
日本語能力の水準 | 職業支援活動をおこなうために必要な日本語能力 ※試験により確認します。ただし、技能実習(3年)を修了していれば免除されます。 |
外国人材の受入れ主体 | 派遣事業者 |
2,特定技能ビザ(農業分野)とはどんなビザですか?
(1)特定技能制度概要
特定技能制度は、人手不足が顕著な特定産業分野(14分野)において、即戦力として就労することが期待できる一定程度の知識や技術を有する特定技能外国人を受入れることによって、日本社会の人手不足に対応することを目的として2019年4月に創設されました。農業分野もこの特定産業分野の1つに含まれます。
特定技能ビザ1号では、通算で5年間日本に在留することが認められます。特定技能2号ビザでは在留期間の上限はなくなり、更新が認める限り在留を継続することが認められます。
特定技能ビザの制度目的は中長期の人材確保にあるため、原則として直接雇用が要件となります。もっとも、農業分野の特徴としては、季節や農産物の違いで繁忙期が異なることから、派遣での雇用も認められています。したがって、農業分野の場合は雇用主のニーズや状況によって雇用形態を調整することも可能です。
(2)取得要件
特定技能ビザ(農業分野)を取得するためには、以下の①または②の要件を満たす必要があります。
①・全国農業会議所による農業技能測定試験の合格 ・日本語能力の試験の合格 |
②農業の実務経験が3年以上あること |
(3)試験概要
①農業技能測定試験
農業技能測定試験には「耕種農業全般」と「畜産農業全般」の2種類があります。従事する予定の仕事に対応する試験を受験します。この農業技能測定試験に合格したとしても、日本での就労が保証されるわけではありません。
農業技能測定試験には農作業現場において必要となる日本語能力に関する日本語問題を含みます。農業技能測定試験に合格しても、別途②日本語試験の合格も必要となります。
・耕種農業全般…栽培管理や農産物の集出荷・選別など ・畜産農業全般…飼育管理や畜産物の集出荷・選別など |
②日本語試験
日本語試験については、以下のいずれかの試験に合格する必要があります。
・国際交流基金日本語基礎テスト…日本における生活で支障がない程度の日本語能力を有するか判定する試験 ・日本語能力試験…日本語が母国語ではない人の日本語能力を測定・認定する試験。特定技能ビザでは基本的な日本語を理解できるレベルであるN4以上の合格が必要となります。 |
(4)断続的な在留が可能
農業分野では農閑期などがあります。そのため特定技能ビザ(農業分野)では半年ほど日本で働き、いったん帰国して再度来日するといった形態も認められています。この場合、帰国中の期間は在留期間に算入されません。つまり、特定技能1号では、通算で5年という在留期間の上限が定められていますが、この在留期間に帰国期間は含まれません。
3,技能実習ビザとはどんなビザですか?
(1)技能実習制度概要
技能実習制度は「日本で開発されて培われた技能・技術・知識を開発途上国などに移転すること」を目的としています。技能実習ビザは、このように「人づくり」によって開発途上国の経済発展に寄与するという、国際協力を目的としたビザです。技能実習ビザ(農業分野)では、通算で5年間の在留が認められます。
農業分野では、農業協同組合や事業協同組合などから許可された、営利を目的としない監理団体が外国人技能実習生を受入れています。そして傘下の組合員や会員などにより実習を行います。農業分野の外国人技能実習生は、1年目に在留資格「技能実習1号ロ」によって日本国内に入国します。そして、技能実習評価試験初級合格など所定の要件を満たすと「技能実習2号ロ」へ移行できます。さらに、優良認定の受入れ機関であれば、技能実習評価試験専門級実技に合格すると「技能実習3号ロ」での受け入れることができます。
技能実習期間中、外国人技能実習生は入管法および技能実習法、労働関係法令の適用を受けます。これによって、外国人技能実習生が、安価な労働力として国内の人手不足を補う手段として利用されることがないように法律上保護されています。
(2)受入機関の要件
技能実習制度は、上記3(1)の通り「人づくり」による国際協力を目的とした制度です。よって、技能実習生を受け入れる農家などの実習実施者は、技能実習計画に基づき技能実習を実施する必要があります。そして、実習実施者は受入れ環境改善に努め、かつ技能などを習得できるよう取り組むことが必要です。このような技能実習制度の基本理念から、受入れ側は以下の要件の全てを充足している必要があります。
・技能実習1号~3号の内容が同一種類の技術や技能であること。 ・技能実習生と実習実施者の間で日本人労働者と同等かそれ以上の賃金を支払う条件で雇用契約が結ばれていること。 ・技能実習は同一の実習実施者がおこなうこと(ただし技能実習3号移行期は、条件を満たした場合のみ実習生は新たな実習先を選択可能) ・実習実施者は技能実習生用の宿泊施設を確保すること。また帰国旅費などの帰国担保措置も講ずること。 ・実習実施者となる受入れ機関あるいはその経営者や管理者が過去5年間において技能実習やその他の法令などに係る欠格事由に該当していないこと。 |
(3)外国人の要件
外国人技能実習生は、技能実習に専念し、技能などの移転に努めなければなりません。よって、外国人技能実習生は、以下の要件を充足している必要があります。
・18歳以上であること ・制度の趣旨を理解していること ・本国で農業に従事した経験、あるいは従事する予定があること ・本国またはその地方公共団体などから推薦されていること ・3号移行時には2号を修了しているか、あるいは技能実習の開始後1年以内に1か月以上帰国していること。 ・過去に同様の技能実習を行っていないこと。 |
(4)技能実習生受入れの注意点
農業分野で外国人技能実習生を受け入れる場合は、まず農業協同組合や事業協同組合などの監理団体が受入れを行います。そして、傘下である組合員や会員といった実習実施者が、技能実習をおこなうことになります。この形態が、農業分野で外国人技能実習生を受け入れる条件となっています。よって、農業者や農業法人などが直接に技能実習生を受け入れることは認めらません。現在農業分野で就労している外国人の多くは技能実習生です。技能実習生は転職できないので注意してください。
4,国家戦略特区農業支援外国人受入事業とは何ですか?
(1)制度概要
国家戦略特区農業支援外国人受入事業とは、日本における農業の経営規模の拡大、成長産業化、国際競争力の強化などを目的として、農業者や農業法人が農業の専門学校や大学を卒業した留学生を受け入れている事業です。外国人の受入れは、国家戦略特別区域内で関係自治体や国の機関による適正な管理体制の下、特定機関が雇用契約に基づいてなされています。もっとも、農閑期や天候不順の期間などへの配慮から、外国人は直接雇用されるのではなくすべて派遣で雇用されます。
外国人の受入れを行っている特定機関とは、労働者派遣法で労働者派遣事業を行い、国や自治体によって構成される適正受入管理協議会の示した基準を満たした企業のことです。
(2)特定機関に認定されるための要件
・厚生労働省から派遣事業の許可を受けること。 ・本社もしくは直営の事業所は外国人派遣事業を実施する区域内か隣接する市町村の区域内であること。 ・会社が過去3年において健全な状態であること。 ・労働者を農家に派遣した実績があること。 ・農業の現場の状況を常に把握できる体制が確立されていること。 |
(3)外国人を受入れる農業者の要件
・外国人の雇用経験があるか、あるいは派遣先責任者講習などを受講した者を責任者としていること。 ・過去5年以内で労働基準法や出入国管理法に違反したといった欠格事由に該当しないこと ・外国人と同様の作業に従事する労働者をその意思に反し、退職させたことがないこと。 ・外国人の労働時間や休憩時間、休日に配慮していること。 ・外国人が住み込みの場合にはその住居の生活環境に配慮していること。 ・派遣事業者への報告を行っていること。 ・国や自治体で構成される協議会による現地調査を受入れていること ・国家戦略特区農業支援外国人受入事業の実施に必要な法令に基づく措置を行っていること。 |
(4)外国人の要件
・申請日時点で満18歳以上であること。 ・農家の実務経験が1年以上あること。 ・農業の技能実習に2年10か月以上従事している技能実習2号修了者か、あるいは耕種農業全般の試験に合格していること。 ・職場の日本人とコミュニケーションができる程度の日本語能力を有していること。 |
(5)受入側の責任
国家戦略特区農業支援外国人受入事業によって外国人を受入る場合、特定機関が外国人本人やその家族などから保証金などを徴収してはいけません。また、外国人材に対しては、農業に関する教育訓練のほか、日常生活や農作業などに必要となる日本語や関係法令、相談窓口などについての研修を行う必要があります。さらに、外国人が安心して日常生活を送るために必要な支援も適切に実施しなければなりません。
「記事監修」 加納行政書士事務所 運営HP:ビザ申請サポートNavi https://visasupportnavi.net/ 代表 特定行政書士 加納 裕之 「学歴」 同志社大学大学院法学研究科公法学専攻博士前期課程修了(修士(法学)) 明治大学法科大学院修了 「専門分野」 入管取次・ビザ申請、在留資格、永住・帰化、外国人問題、国際公法 |