帰化申請で特別永住者が注意する点は何ですか?
目次
1,特別永住者とは何ですか?
特別永住者とは、平和条約国籍離脱者と、その直系卑属の中で日本国内出生後も継続在留する者が該当します。わかりやすく言えば、第二次大戦終結時に日本国籍を有し日本に住んでいた在日韓国人・朝鮮人とその子孫です。令和4年の時点での特別永住者の実数は、28万8980人が日本に在留しているとされます。
特別永住者の外国籍の方は、その歴史的背景から日本に生活の基盤を有し定着しています。日本で出生した特別永住者の外国人は、本国以上に日本との結びつきが深いことが珍しくありません。そこで、日本で就職するため日本国籍を取得したい、日本人と結婚するため日本国籍を取得したい、子供が生まれるので日本国籍を取得し自身の戸籍に子供を入れたい、といった背景で帰化申請を希望する特別永住者は少なくありません。
2,特別永住者は帰化許可要件が緩和されますか?
特別永住者が帰化申請する場合は、一般の外国籍の方が帰化申請する場合に比べて、帰化許可要件の一部が緩和されています。一般の帰化の場合を「普通帰化」、要件が緩和されている場合を「簡易帰化」と呼ばれたりもしています。
具体的には、特別永住者の場合は、居住要件が緩和されています。一般の帰化申請の場合は、居住要件として、引き続き5年以上日本に居住していなければならないことを求めています。これに対し、特別永住者の場合は、引き続き3年以上日本の住所又は居所を有していれば、帰化申請をすることが認められます。
上記のように特別永住者の場合は、居住要件が緩和されていますが、その他の許可要件まで緩和されているわけではありません。生計要件や素行善良要件といった、その他の帰化許可要件は、一般の外国人の場合と変わりありません。つまり、簡易帰化と呼ばれるからといって、帰化の手続きが容易になったり、収集すべき書類が減ったりすることはありません。
3,特別永住者の帰化申請での注意点は何ですか?
上記2の通り、特別永住者は居住要件が緩和されていますが、その他の帰化許可要件が緩くなるわけではありません。むしろ、特別永住者の場合は、日本に住んでいる期間が、一般の外国人の場合より長いので、帰化申請に必要な書類は一般の外国人の場合よりも多くなる傾向があります。7つある帰化許可要件のうち特に注意すべき点は、素行要件と生計要件です。納税や年金、社会保険の支払などを未納滞納なく支払い、必要な書類を収集し、帰化申請が法務局で受理された場合は、多くの場合は許可されます。以下では、特別永住者が注意すべき素行要件と生計要件を検討します。
(1)素行要件①素行善良
帰化が許可されるためには、素行が善良であることが必要です。犯罪歴の有無や態様、納税状況や社会への迷惑の有無の事情を総合的に考慮して、一般通常人を基準として、社会通念によって判断されることとなります。社会通念とは、一般常識のことです。
(2)素行要件②納税状況
税金の未納滞納がないことが重要です。同居する家族がいる場合には、申請人のみではなく同居する家族全員の税金支払い状況が審査の対象とされます。会社員の場合は、会社が社会保険に入っているので、給与から天引きされるため、問題となることは多くありません。会社経営者や個人事業主の場合は、注意が必要です。会社経営者の場合は、個人の税金のみならず、会社の法人税の支払い状況も審査の対象となります。また、会社員の場合でも、株や不動産投資その他で副収入を得ている場合は、その利益額によっては確定申告をする必要が生じてきます。このような副収入を得ている場合で税金を支払う必要が出てきた場合は、会社員の場合でも注意が必要です。副収入の税金の未納滞納がないように注意する必要があります。未納滞納がある場合は、帰化申請前に支払っておく必要があります。
(3)素行要件③年金支払状況
帰化申請では、税金の支払い状況のみならず、年金の支払い状況も審査の対象とされます。審査の対象となる期間は、直近1年分の年金支払状況です。会社員の場合は、会社が厚生年金に加入しているため問題となることは多くありません。個人事業主の場合は国民年金に加入し自分で支払う必要があります。直近1年分の年金の支払いに未納滞納がないように注意してください。未納滞納がある場合には、帰化申請する前に支払いを済ませる必要があります。会社経営者の場合は、自身の年金のみならず経営する会社の社会保険料の支払にも注意する必要があります。
(4)素行要件④交通違反
帰化申請では、過去5年間の交通違反の状況が審査されます。軽微な交通違反でも、過去5年間に5回以上の交通違反があると、素行善良であるとは認められなくなると実務上考えられています。軽微な交通違反とは、右折禁止や進路変更禁止といった違反です。飲酒運転などの重大な交通違反の場合は、1回の違反でアウトです。
(5)生計要件
生計要件では、日本で安定継続的に生計を維持できることを求めています。この生計要件は世帯を基準に判断されます。同居の家族がいる場合には、申請人本人に収入がない場合でも、同居の家族(配偶者や成人した子供)に十分な収入がある場合には生計要件を充足することができます。生計要件は必ずしも申請人本人に備わっている必要はありません。生計要件を充足するために必要な収入は、単身世帯であれば手取りで月18万円以上あれば充足することができます。扶養者がいる場合は、18万+αが必要になります。
生計要件を充足するためには、毎月安定した収入を得ていることが重要になります。貯金額の多さはプラスには働きますが、収入がない場合は貯金額で生計要件を満たすことは出来ません。借入金がある場合は、返済計画を立て返済していけるだけの収入があることが重要となります。返済しているのであれば問題ありません。生計要件では、何よりも、ご自身の収入に見合った堅実な生活をしていることが重要となります。
「記事監修」 加納行政書士事務所 運営HP:ビザ申請サポートNavi https://visasupportnavi.net/ 代表 特定行政書士 加納 裕之 「学歴」 同志社大学大学院法学研究科公法学専攻博士前期課程修了(修士(法学)) 明治大学法科大学院修了 「専門分野」 入管取次・ビザ申請、在留資格、永住・帰化、外国人問題、国際公法 |