経営・管理ビザ取得のための会社設立手続きと資本金要件
(外国人在留資格「経営・管理」取得のための完全ガイド)
目次
はじめに
日本で外国人が会社を設立し、経営または管理に従事するための在留資格、すなわち「経営・管理ビザ(在留資格 “経営・管理”)」。このビザを取得するためには、単に法人を設立すれば良いというわけではなく、定められた手続きや資本金・出資額、雇用体制、事業実態の確保など、複数の条件をクリアする必要があります。
本記事では、最新の制度改正を踏まえた会社設立手続きおよび資本金(出資)要件について、ステップごとに詳しく解説します。加えて、よくある Q&A を設け、申請を検討される方の疑問にも丁寧にお答えします。
※なお、制度概要については、出入国在留管理庁の公表資料「在留資格「経営・管理」に係る上陸基準省令等の改正について」もご参照ください。
第1章 「経営・管理ビザ」とは何か
1‑1 在留資格の概要
「経営・管理」ビザとは、外国人が日本国内において会社等を設立し、経営または管理に従事することを目的とする在留資格です。主に以下のようなケースで用いられます。
- 日本で起業して会社を設立・運営する外国人
- 海外にある企業の日本支店等を立ち上げ、現地から経営・管理業務を行う外国人
- 日本企業が外国人を経営・管理部門に招聘し、その外国人が管理的地位に就く場合
1‑2 取得の意義と注意点
この在留資格を得ることで、外国人起業家は“事業主体”として日本に滞在しながら事業運営が可能になります。反面、ビザ取得後も「実際に継続的に事業を行っている」ことが問われ、単に登記だけしたペーパーカンパニーでは許可・更新が難しくなっています。
実務上、資本金・出資額、雇用実態、事業所(オフィス)など、審査によるチェックのハードルが近年、さらに厳しくなってきています。
第2章 会社設立手続きの流れ
会社を設立して「経営・管理」ビザを取得するまでの典型的な手続きの流れを、以下に整理します。
(※具体的な事業形態・業種・地域によって多少の差異がありますので、専門家へご相談されることをおすすめします。)
2‑1 事前準備
- 事業アイデア・事業計画の策定
どのようなビジネスを日本で展開するか、収支計画、設備・人員配置、販売先・顧客見込みなどを整理します。 - 会社形態の決定
株式会社、合同会社、合資会社などの形があり、それぞれ設立手続き・出資要件・登記費用が異なります。 - 出資・資本金の用意
会社設立に必要な資本金あるいは出資総額を確保し、指定口座へ振り込み、証明できる状態を整えます。 - 事業所(オフィス)を確保
法人登記上の本店所在地・事業所の住所を確保し、賃貸借契約書や登記簿・使用権を確認できるようにします。 - 雇用体制の検討
人員を雇用する場合、常勤職員を確保するか否かなども、将来のビザ申請・更新の観点で重要です。
2‑2 登記手続き
- 定款の作成・認証(株式会社の場合)
定款を作成し、公証人役場にて認証を受けます。合同会社では認証不要のケースもあります。 - 資本金の払込・出資履行
出資者(代表者含む)が指定銀行口座等へ出資金を振り込み、払込済であることを証明できる通帳の写し・払込証明書を準備します。 - 商業登記の申請
法務局に会社設立登記を申請します。登記事項証明書が発行され、会社として法的に成立します。 - その他手続き
・印鑑登録(会社実印)
・税務署・都道府県・市区町村への届出(法人設立届出書、給与支払事務所等の開設届など)
・許認可が必要な業種の場合は、該当する行政機関で許可・免許を取得。
2‑3 ビザ申請の準備
会社設立後、以下のような項目を整えて、在留資格「経営・管理」への申請を行います。
- 会社の登記事項証明書
- 資本金(払込資本)証明・出資履行の証明
- 事業所の賃貸借契約書・使用証明
- 常勤職員の雇用契約書(雇用する場合)
- 事業計画書・収支予測・経営戦略
- 申請者の略歴・経歴書・学歴等、必要に応じて実務経験証明
- 日本語能力を証する資料(改正後の新要件対応時)
2‑4 審査・ビザ交付
申請書・添付書類を整えて、管轄の出入国在留管理局へ提出します。審査の結果、認定証明書の交付もしくは在留資格変更・更新許可が下りれば、在留カードが交付され日本での滞在と事業運営が可能となります。
2‑5 事業運営・更新・監査対応
ビザ取得後も「継続的に事業を運営している」という実績が求められます。定期的に税務申告、社会保険・労働保険適用、帳簿記帳、雇用実態等を整備しておくことが重要です。更新申請時には、これらの活動実績が審査対象になります。
第3章 資本金・出資要件の最新動向
3‑1 改正の背景
これまで、資本金「500万円以上」という比較的緩やかな基準で「経営・管理」ビザを取得できていた外国人起業家も多くいました。実際、少額資本で法人を設立し、ビザ取得という目的のみを達成して、実際の事業運営が乏しい「ペーパーカンパニー」の存在が問題視されてきました。
このため、制度の信頼性向上と実質的な事業運営を伴う起業を促す観点から、要件の厳格化が進んでいます。
3‑2 新資本金(出資総額)要件
最新の改正により、以下のように資本金・出資総額の基準が引き上げられています。
- 原則として「資本金額又は出資の総額が 3,000 万円以上」であること。
- 法人の場合:株式会社では「払込済資本の額」、合資会社・合名会社・合同会社では「出資の総額」。
- 個人事業主等の別形態の場合:事業所確保、1年分の人件費、設備投資等を「投下総額」として評価。
3‑3 なぜ「3,000万円以上」なのか?
この大幅な引き上げには次のような狙いがあります。
- 実質的に「事業を継続・運営できる資本基盤」を確保させる。
- 日本国内で雇用を創出し、納税実績・社会保険適用等の実務を伴う経営を促進する。
- 制度の信頼性を高め、形式的・名義貸し的な起業を防止する。
3‑4 資本金以外の関連要件
資本金の引き上げだけではなく、次のような補完的な要件も追加されています(2025年10月16日施行)
- 常勤職員を1人以上雇用していること(対象は日本人、永住者、日本人の配偶者等、定住者ビザ保持者等)こと。
- 申請者または常勤職員のいずれかが、相当程度の日本語能力(例えば JLPT N2 相当)を有していること。
- 申請者自らが「経営・管理に関する3年以上の実務経験」または「修士・博士・専門職学位」を有していること。
これらの要件を併せて満たすことが、今後の取得・更新において極めて重要となります。
3‑5 資本金の実務的なポイント
- 資本金払込み時:銀行通帳の履歴、払込証明書、振込明細等で「出資が確実に払込済である」ことを証明。
- 出資比率、出資者構成、出資の「出所」について整理・説明できるようにする。
- 借入金や貸付金で資本金を充当する場合、貸付契約書・返済条件・出資契約書との整合性を確認。
- 資本金の額が「事業規模」に見合ったものであるか、審査上チェックされる可能性あり。
- 既にビザ取得済の方が、更新時に「実質的に資本金が動いていない」「事業規模が乏しい」と判断されると更新拒否・短期査証となるリスクが高まっています。
第4章 会社設立時の実務チェックリスト
外国人起業家が「経営・管理」ビザを視野に会社を設立する際、以下のチェックリストを用いて準備を進めるとスムーズです。
チェックリスト:会社設立・資本金・申請準備
- 会社名・目的・事業内容を明確化。目的にはビザ用に「継続的・反復的に行う事業」を記載。
- 会社形態を決定(株式会社/合同会社など)。
- 資本金又は出資総額を 3,000万円以上 とする場合、または経過措置を見込む場合はその分の計画を整理。
- 出資者・出資額・払込方法を決定、銀行口座を準備し、払込手続きを実施。
- 資本金払込証明として通帳コピー・振込明細・払込証明書を取得。
- 事業所(本店所在地)を確保し、賃貸借契約書等を取得。住居兼用・バーチャルオフィスのみでは不十分となる可能性あり。
- 常勤職員(日本人または指定在留資格者)を雇用する場合、雇用契約書・社会保険加入等準備。
- 申請者・常勤職員いずれかの「日本語能力」を証明できる資料(JLPT N2、BJT 400点、日本高等教育卒等)を整理。
- 事業計画書を作成し、収支予測・雇用人数・事業所規模・投資金額を明記。専門家(税理士・中小企業診断士)による確認を受けることも有効。 V
- 各種設立登記手続・税務・労務手続を完了。法人設立届、印鑑登録、給与支払事務所届出など。
- 在留資格申請書類を準備して管轄の入国在留管理局へ提出。
- 事業開始後は帳簿記帳・税務申告・社会保険・雇用保険適用を継続。更新時にはこれらが審査対象になります。
第5章 制度変更・改正動向について
2025年10月16日から施行された省令改正により、「経営・管理」ビザの取得・更新に関する基準が大幅に見直されました。以下、改正内容と実務への影響を整理します。
5‑1 主な改正ポイント
- 資本金等の基準を「3,000万円以上」に引き上げ。
- 常勤職員1名以上の雇用が必須化。
- 日本語能力(申請者または常勤職員のいずれか)が B2 相当(JLPT N2以上等)を有すること。
- 申請者自身が経営・管理に関して3年以上の職務経験を有するか、または修士・博士・専門職学位を有すること。
5‑2 施行前・施行後の影響
この改正により、特に新規取得を検討する外国人起業家にとってハードルが上がったとされています。
ただし、既に在留資格を有している方については、更新時の経過措置が設けられている場合もあります。各自のケースに応じて専門家への相談が推奨されます。
5‑3 実務上の注意点
- 資本金額だけ満たせば良いわけではなく、事業規模・雇用実態・日本語能力・申請者の経歴など、総合的に評価されます。
- 会社を設立して「すぐにビザ申請」ではなく、設立後の実務態勢・人員配置・賃貸借契約・事業準備が整ってから申請することで審査通過率が上がります。
- 更新時に実態が伴わない場合、次回以降の許可困難となる可能性があります。帳簿・税務申告・社会保険加入など、設立後の「実運営」を早期に体制化しておきましょう。
第6章 Q&A(よくある質問と回答)
以下では、申請者がよく抱える疑問に対して、端的に回答します。
Q1:資本金が3,000万円に満たない会社でも申請できますか?
A1:最新改正において、原則として資本金(又は出資総額)3,000万円以上が要件とされています。 ただし、施行前の申請や経過措置など、個別のケースによっては旧基準(500万円以上等)が適用される可能性もあります。専門家に「いつ設立/申請を行うか」「施行前案件か」を確認することが重要です。
Q2:資本金3,000万円をどう準備すればよいですか?
A2:出資者(代表者含む)が銀行口座に振込を実施し、払込証明・通帳の記録・株主総会議事録等を整備する必要があります。借入金を資本金と見做せるか等についても慎重に確認が必要です。
Q3:常勤職員を1名以上雇用が必要というのは本当ですか?
A3:はい。改正後の要件では、資本金3,000万円以上と並び、常勤職員1名以上の雇用が義務付けられています。職員は日本人、または永住者・日本人の配偶者等・定住者ビザ保持者である必要があります。
Q4:住居兼用の事務所でも大丈夫ですか?
A4:事務所・事業所として確実に専用利用されていることが望ましく、「住居兼用」「バーチャルオフィスのみ」という形式では、審査上マイナス評価となる可能性があります。事業実態を示すため、賃貸契約書・使用実態・人員配置などを整えることが重要です。
Q5:申請者本人が日本語能力が低くても大丈夫ですか?
A5:改正要件では、申請者または常勤職員のいずれかが「相当程度の日本語能力(例:JLPT N2以上)」を有していればよいとされています。したがって、申請者自身でなく、雇用する常勤職員が要件を満たす形でも申請可能です。
Q6:会社設立後どれくらいの期間で申請すればよいですか?
A6:明確な「必須期間」は定められていませんが、設立登記、資本金払込、事業所確保、雇用人員配置、事業計画書作成等の準備が整ってから申請するほうが審査上有利です。設立直後に慌てて申請するより、ある程度の実務体制を整えることをおすすめします。
Q7:既に設立済の会社で、資本金を増資すれば申請できますか?
A7:はい、増資も可能です。ただし、増資の過程(株主総会決議、払込手続き、登記変更等)をきちんと証明できるようにしておくことが大切です。また、増資された資本金が事業計画・事業規模に見合っていることも審査で問われます。
まとめ
本記事では、外国人が「経営・管理」ビザを取得するために必要な会社設立手続きおよび資本金(出資)要件について、最新の制度改正も踏まえて詳しく解説しました。ポイントを改めて整理します。
- 会社設立手続きには、定款作成・資本金払込・登記申請・事業所確保・雇用体制など複数ステップがあります。
- 資本金(又は出資総額)について、最新の要件では 3,000万円以上 が原則となっています。
- 資本金以外にも「常勤職員1名以上の雇用」「申請者または常勤職員の日本語能力」「申請者の経営・管理実務経験等」が重要な審査項目となっています。
- 会社を設立して終わりではなく、申請後も「継続的に事業を運営している」実績(帳簿記帳、税務・社会保険加入、事業実績)を整備しておく必要があります。
- 申請前には、事業計画書の質を高めるため、税理士・中小企業診断士・行政書士等の専門家からの確認を受けておくことが、審査通過の鍵となります。
- 更新時も厳格化傾向にあるため、初回取得後も数年先を見据えた整備が求められます。
貴社・貴殿が日本で起業・事業展開を検討される際には、事前にリスク・要件を正確に把握し、適切な準備をすることでスムーズな取得を目指せます。弊社でも、設立支援・ビザ申請支援の実務経験が多数ございますので、ご希望であれば個別サポートのご案内も可能です。
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![]() 「記事監修」 加納行政書士事務所 運営HP:ビザ申請サポートNavi https://visasupportnavi.net/ 代表 特定行政書士 加納 裕之 「学歴」 同志社大学大学院法学研究科公法学専攻博士前期課程修了(修士(法学)) 明治大学法科大学院修了 「資格」 行政書士(特定付記)、TOEIC805点 「専門分野」 入管取次・ビザ申請、在留資格、永住・帰化、外国人問題、国際公法 |

