経営管理ビザの更新に役員報酬はいくら必要?審査基準と金額目安を徹底解説
目次
はじめに
経営管理ビザを取得した後に最も気になるのが「次回更新」の審査です。事業の継続性・安定性・生活基盤が評価対象となりますが、意外と見落とされがちなのが 「役員報酬(代表者報酬・役員給与)」 の設定や実績です。
本記事では、役員報酬が更新審査にどう影響するのか、どのように設定・管理すべきかを明らかにします。
1.「役員報酬」は更新審査でなぜ注目されるのか
1-1 事業の継続性・安定性の観点から
更新申請の際、入管庁が重視するポイントとして「事業の実態」「継続性」「生活基盤の安定性」が挙げられています。
代表者自身が適切な報酬を受けていない場合、次のように疑われる可能性があります:
- 「この経営者は日本でどうやって生活しているのか?」
- 「事業が利益を出せておらず、報酬も支払えていないのではないか?」
- 「別の収入源に頼っており、適法な在留資格活動外の就労をしているのでは?」 など。
つまり、役員報酬は単に「給与」ではなく、事業が安定して運営されており、経営者が日本で継続して生活できるという 証拠のひとつ となるのです。
1-2 在留資格「経営・管理」における位置づけ
「経営・管理」の在留資格を有する経営者は、法人設立・運営や管理を通じて日本に拠点を置くことが前提です。
この中で「収入がゼロ」「報酬を極端に低く抑えている」状況は、経営活動・管理活動の実質性に疑問符を付けられるおそれがあります。例えば、役員報酬を“無報酬”に設定していると、事業運営そのものが形骸化していると判断されることがあります。
1-3 更新だけでなく、将来の永住も見据えた観点から
さらに重要な点として、将来において 永住者 あるいは 定住者 への在留資格変更を目指す場合、安定した収入(納税実績を含む)は必須の要件になってきます。報酬額・納税・社会保険加入状況などが実績として評価されます。
その意味でも、役員報酬は「今だけ更新を通すため」にというより、「中長期的な在留戦略」にとっても極めて重要です。
2.更新審査において「役員報酬」が具体的にどこでチェックされるか
更新申請時において、役員報酬は次のような観点から確認されます。
2-1 税務申告・課税実績
- 代表者が法人からどの程度役員報酬を受けているか(給与明細・源泉徴収票・課税証明書等)
- 役員報酬に応じた所得税・住民税が適正に申告・納付されているか
例えば、「役員報酬が月5万円」という極端に低い額で、住民税や所得税の課税証明がほとんど出ていないケースでは、更新を拒否されたという実務例があります。
2-2 役員報酬の支給実績・継続性
- 定期的・継続的に同額/見込みどおりの報酬が支給されているか
- 途中で大幅な減額がないか、報酬がゼロになっていないか
「途中で報酬を下げた」「事実上支給が停止していた」という状況は、生活基盤の不安定さを示すため、更新審査でマイナス評価となります。
2-3 事業の収益・法人の経理状況との整合性
- 会社の決算書(損益計算書・貸借対照表)において、報酬を支払える程度の利益・キャッシュフローがあるか
- 役員報酬が従業員給与よりも明らかに低すぎないか(経営者が従業員より報酬が低いというのは不自然と判断される)
- 社会保険・雇用保険の加入、税金の納付など会社としての義務が果たされているか
2-4 生活基盤としての妥当性
役員報酬が生活費を賄えないと判断される金額であれば、「日本で継続して生活していけるか?」という疑問を抱かれる可能性があります。
例えば、東京都心在住・配偶者・子どもありという条件で、月額10万円程度では到底生活設計上厳しいという見られ方があります。
3.どれくらいの「役員報酬」を設定すべきか(目安・実務)
法令上、役員報酬の最低金額など明文化された基準はありません。 しかし、実務上は次のような水準が目安とされています。
3-1 実務上の目安金額
- 月額 18万円〜20万円以上 を最低ラインとする見解が多くあります。
- より余裕をもたせた水準として、月額 20万円以上 が望ましいというものも。
- 将来、永住を見据えるなら年収300万円(=月25万円)以上などが挙げられています。
- 扶養家族がいる場合、配偶者・子どもそれぞれに+アルファが必要という指摘も。
3-2 なぜこの金額か?
- 日本国内で単身者が最低限の生活を送るためには、家賃・光熱費・通信費・食費・社会保険料等を勘案すると、月18〜20万円程度がボーダーラインと考えられているため。
- 役員報酬が低すぎると「生活費を賄えるのか」という観点で疑問を持たれやすい。
- 加えて、役員報酬が一定水準以上であれば、納税実績・社会保険実績もあると判断されやすく、審査において有利。
3-3 どのように設定・変更すべきか
- 役員報酬は、法人設立時または事業年度開始後3ヶ月以内(あるいは定款・株主総会議事録で決議)に決定することが税務上のルール。
- 設定後、途中で大幅減額・無報酬化は避けたほうがよく、更新審査でマイナス評価とされるケースがあります。
- 扶養家族・家族滞在ビザを併用する場合などは、報酬設定を少し余裕をもたせておく方が安心です。
- 税理士・行政書士など専門家と相談しつつ、適正な報酬水準を決め、法人のキャッシュフローや税務戦略と整合させておくことが望ましいです。
4.「役員報酬」が低すぎるとどんなリスク?実務的な注意点
以下に、役員報酬が低すぎたり、支給が不整備だったりした際のリスク・注意点を整理します。
4-1 生活基盤の不明確さ
・月額10万円以下、無報酬、あるいは支給停止という実例では、「この経営者は日本で生活できているのか?」という疑問を招き、更新却下になったケースあり。
・支給があっても「年に1回のみ」「金額が変動している」「報酬が社員より低い」というと、経営者としての役割・実態に疑義を持たれます。
4-2 事業継続・安定性の疑義
・役員報酬が支給できないということは、法人自身の収益状況が厳しいと見られる可能性があります。結果、更新審査で「事業の継続性」に疑問を持たれやすくなります。
・法人の決算書が赤字続き、あるいは債務超過に近いという状況で、役員報酬まで削っていると「経営管理ビザ」の趣旨(経営・管理活動による日本滞在)から逸脱していると判断されるリスクがあります。
4-3 税務・社会保険リスク
・税務申告が「少額の報酬で所得税納税が極めて少ない」状態だと、税務上も疑問を抱かれやすい。事実、「役員報酬0円での更新は難しい」という指摘もあります。
・また、法人が社会保険未加入・保険料滞納などをしていると、事業の適法性・管理体制に問題ありと評価され、在留資格更新にマイナス。
4-4 減額・無報酬変更のタイミング
・「売上が落ちたので役員報酬を途中で減らした」「無報酬にした」というケース、更新時に「なぜ減らしたのか」「今後どのように回復させるのか」という説明を求められやすい。
・実務上は、設立時から一定水準の報酬支給を継続する方が安心です。
5.更新申請で「役員報酬」に関して押さえておくべき実務チェックリスト
以下は、更新申請時に「役員報酬」に関して確認すべき実務ポイントです。申請前に社内・税務・会計でクリアしておきましょう。
| チェック項目 | ポイント |
|---|---|
| 役員報酬の決議・金額設定 | 定款または株主総会議事録で決定されているか。税務上、事業年度開始後3ヶ月以内に決議済かどうか。 |
| 役員報酬の支給実績 | 毎月または定期的に同額が支給されているか。支給が途中停止・減額されていないか。 |
| 課税・納税実績 | 代表者の源泉徴収票・課税証明書・住民税納付証明などが揃っているか。 |
| 報酬水準の妥当性 | 日本での生活を営むに足る金額かどうか。実務目安:月額18〜20万円以上、できれば20万円以上。扶養家族がいるならそれに見合った水準。 |
| 会社の収益・支給能力 | 法人決算書(損益・貸借)で、報酬を支払える体力があるか。赤字・債務超過が継続していないか。 |
| 社会保険・雇用保険等の加入状況 | 社会保険の加入・保険料滞納なしなど、法人としての義務を果たしているか。 |
| 将来の在留資格方向性と整合性 | 永住等を見据えているなら、報酬水準・納税・生活基盤が継続しているか確認。 |
6.「役員報酬が影響するが、唯一の審査基準ではない」ことを理解する
重要な点として、役員報酬だけが更新許可・不許可を決定する 唯一の基準 ではありません。以下点を併せて理解しておきましょう。
- 事業内容・実績・将来計画(特に更新時は「実績重視」)が審査対象です。
- 法令遵守(納税・社会保険・許認可など)の状況が重要です。
- 在留目的通りの業務(経営・管理)が行われているか、虚偽・脱法的な運営でないかがチェックされます。
- 役員報酬を含め、総体的に「この経営者・会社が日本において適正に経営・管理活動を行い、かつ経営者が日本で生活し続ける蓋然性があるか」が判断されます。
そのうえで、「役員報酬が低すぎる」「支給が滞っている」「報酬設定と事業実態に乖離がある」といった点は、更新審査において 審査官の疑義を呼びやすい “リスク因子” ということです。
7.まとめ
- 在留資格「経営・管理」の更新審査において、役員報酬は「生活基盤の安定性」「事業の継続性」「法人・経営者の実態性」を示す重要なチェックポイントです。
- 法令上の明確な最低額はないものの、実務上は月額 18〜20 万円以上(できれば20万円以上)、将来の永住を視野に入れるなら年収300万円(月額25万円)以上が目安とされています。
- ただし、役員報酬が唯一の判断基準ではなく、法人の実績・事業計画・税務・社会保険の状況など総合的な審査となります。
- 実務的には、役員報酬の決議・支給実績・納税実績・報酬水準の妥当性を事前に社内で見直し、税理士・行政書士と相談のうえ進めることが安心です。
- 更新時だけ慌てて対応するのではなく、日頃から適正な報酬体制・経営体制を確立しておくことが、在留資格維持・将来の在留戦略において有利となります。
8.Q&A よくある質問
Q1. 役員報酬をゼロにしても更新できますか?
A. 可能性はありますが、非常にリスクが高いです。報酬ゼロということは、生活基盤をどのように確保しているか、法人が報酬を支払う体力があるか、経営・管理活動が実質的か、など疑問を持たれやすくなります。実務上、「報酬ゼロ=更新が難しい」との見解が多くあります。
Q2. 役員報酬を途中で減額しても大丈夫ですか?
A. 減額自体が直ちに不許可原因になるわけではありませんが、更新時に「その理由」「生活基盤・事業体力にどのように影響するか」を説明できないと不利です。特に、設立直後から極端な減額を繰り返すと、事業継続性に疑問を持たれます。
Q3. 配偶者・子どもがある場合、報酬はいくら必要ですか?
A. 明確な数字はありませんが、扶養家族がある場合は単身者よりも高めの報酬が求められる傾向にあります。例えば月額25万円以上、場合によっては30万円以上などが事務所実務では目安とされています。
Q4. 海外収入や家族からの援助で生活している場合、役員報酬が低くても良いですか?
A. 海外収入・援助があればその旨を説明可能ですが、更新審査では「日本国内の法人から適正な報酬を得ているか」「納税・社会保険の実績があるか」「その援助の継続性・明確性」が問われます。報酬を極端に低く抑えて、援助で穴埋めしているという状況だと、透明性・実態性に疑問を持たれやすいです。
Q5. 役員報酬が高すぎても問題ですか?
A. 高すぎる報酬そのものが自動的に問題となるわけではありませんが、法人の収益状況と乖離している、従業員給与より著しく高い、キャッシュフローが危うい状況なのに報酬だけ支給されているというような状況だと、事業運営の実態性・適法性・継続性が疑われる可能性があります。報酬金額は「法人・事業内容・地域・業種・規模」に応じて妥当性が求められます。
9.関連記事・参考リンク
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参考リンク
10.最後に
「役員報酬」は数字だけに見えますが、実務的には「事業の安定性・経営者の生活基盤・法人としての信頼性」を示す重要な指標です。更新申請の直前に慌てて対応するのではなく、日々の報酬支給実績・法人の決算・税務・社会保険加入など、 継続的な体制構築 が不可欠です。
特に、今後「永住」や「定住者」へのステップを視野に入れている方にとっては、役員報酬を含めた経営・在留戦略を早めに整えることが成功の鍵となります。
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