介護施設が外国人を雇用する際の注意点― 就労ビザ × 在留資格の視点から徹底解説 ―
目次
はじめに
日本の介護業界は慢性的な人材不足に直面しており、多くの介護施設が 外国人労働者の採用 に注目しています。実際、バックエンド社の調査によると、介護サービス職業の有効求人倍率は非常に高く、2025年には約32万人の介護人材が不足すると予測されています。
しかし、外国人を採用するにはビザ(在留資格)の選定・申請、法令遵守、日本語支援、定着支援など、施設側が配慮すべきポイントが数多くあります。本記事では、介護施設が外国人を雇用する際に押さえるべき注意点を、ビザ制度から現場運営・定着支援まで幅広く解説します。
1. 外国人を介護施設で雇うための主な在留資格
まず、介護施設が外国人を雇う際に考えられる代表的な在留資格(就労ビザ)を紹介します。
| 在留資格 | 特徴 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 介護 | 介護業務に特化した在留資格 | 介護福祉士と連携しやすく、専門性が高い | 要件が厳しく、日本語や介護福祉士など専門スキルが必要 |
| 特定技能(介護) | 特定産業分野に限定された技能就労 | 即戦力として採用しやすい。2025年4月から訪問介護も従事可能に | 在留期間制限、家族帯同制限あり |
| 技能実習(介護) | 研修・技能移転を目的とした制度 | 教育・育成の枠組みが明確 | 実習期間終了後のキャリアパスが課題 |
| 技術・人文知識・国際業務(技人国) | 学歴・専門性を持つ人材向け | 高度スキル人材を採用可能 | 業務内容と学歴・職務経歴の整合性が必要、専門業務とのミスマッチに注意 |
2. ビザ選定のポイントと注意すべき制度リスク
2.1 在留資格ごとの制度理解
- 技術・人文知識・国際業務(技人国)
このビザは専門性や学歴を要求されるため、介護現場のどの業務を担当させるかが重要です。施設内で単純な作業だけを任せると、ビザ申請が認められない可能性があります。 - 特定技能(介護)
2025年4月に、訪問介護への特定技能外国人・技能実習生の従事が解禁されました。
これにより、介護施設は訪問介護事業所でも外国人を受け入れやすくなりました。 - 介護資格
専門性が強く、介護福祉士資格を持つ外国人を採用できれば、施設の質を高めることが可能です。ただし、取得条件や更新条件をよく検討する必要があります。
2.2 法令・行政リスク
- 適法な業務範囲の確認
在留資格ごとに、従事可能な業務が異なります。不適切な業務(例:技人国ビザ保持者が単純介護作業のみを行う)は、許可の拒否や後の在留資格更新時の問題につながる可能性があります。 - 給与水準と処遇の整合性
外国人労働者にも日本人と同等以上の給与、待遇を提供する必要があります。特定技能や技人国ビザでは、報酬水準が審査の際に重視されるためです。 - 契約条件と継続性
在留資格が継続できるような長期的な雇用計画が求められます。とりわけ特定技能1号は最大5年の制限があるため、長期定着策が必要です。
3. 採用・運営時の実務上の注意点
介護施設が外国人を採用した後の運営体制や現場対応についても注意すべきポイントがあります。
3.1 サポート体制の整備
- 日本語支援
外国人介護職員が日本語で円滑にコミュニケーションを取れるよう、語学研修や日本語学習サポートを設けることが重要です。特に訪問系サービスでは、利用者との意思疎通が安全や信頼関係に直結します。 - OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)
経験や能力に応じて、OJT期間を柔軟に調整する必要があります。通常より長めの期間を設けたり、定期面談を通じて課題を把握・対応したりすることが有効です。 - メンター制度の導入
経験豊富な介護スタッフが外国人職員を指導することで、技術・文化的な橋渡し役を果たせます。
3.2 職場文化・チームビルディング
- 多文化理解の促進
異文化間理解を深める研修やチームビルディングを定期的に実施することで、お互いの信頼関係を強化できます。 - ハラスメント対策
異文化摩擦や誤解が発生しやすいため、ハラスメント対策(相談窓口、フォローアップ面談など)を制度化しておくことが望ましいです。
3.3 定着支援・キャリアパス
- キャリア開発計画の策定
特定技能から介護資格(介護福祉士)への移行支援を行うことで、長期定着を図ることができます。実際、特定技能から「介護」への在留資格移行を支援して成功している施設もあります。 - 評価制度の見直し
定期的な評価を行い、昇給や資格取得支援につなげることでモチベーションを高め、離職を防ぎます。
4. 管理・コンプライアンス上の留意点
介護施設として、外国人雇用では特有の管理責任やコンプライアンスリスクがあります。
- 在留資格管理
外国人職員の在留資格(在留カード、有効期限等)を適切に管理し、更新時のサポートを体制化する必要があります。 - 就業規則の整備
就業時間、休暇、夜勤、給与などの条件を明文化し、明確に外国人人材にも伝えることが大切です。特に夜勤を担当させる場合など、労働条件の透明性が重要です。特定技能「介護」ビザで夜勤を実施できるケースも報告されています。 - 報告・定期報告義務
特定技能など一部の在留資格では、施設(受入れ事業者)に対して定期報告義務があります。報告制度を怠ると、信頼性の低下や行政対応を招くリスクがあります。 - 安全・危機管理
訪問介護などでは、利用者宅への訪問時のリスク(緊急時の対応、言語トラブルなど)もあります。事業者として同行訪問の期間を設けたり、緊急連絡手段を整備したりすることが望ましいです。
5. 外国人雇用によるメリットと注意バランス
メリット
- 人材確保:深刻な介護人材不足を補える。
- 多様性によるサービス向上:多言語対応や多文化理解が進むことで、利用者へのサービス幅が広がる可能性がある。
- 定着・キャリア形成:長期的な人材育成を通じて、安定した人員構成が可能になる。
注意点(デメリット・リスク)
- ビザ・在留資格のミスマッチ:適切な資格選定・維持を怠ると法的リスクがある。
- コスト増:語学教育、OJT、定着支援など運営コストがかかる。
- 離職リスク:文化・言語ギャップによる定着難やホームシックなど。
6. 実践のためのステップガイド
以下は、介護施設が外国人雇用を行う際のステップと実践ポイントです。
- 社内でニーズ分析
- どのポジション(訪問介護・施設内介護・夜勤など)が人手不足か
- 外国人材が果たす役割(即戦力・育成型・専門型)
- 在留資格の選定
- 技人国・特定技能・介護など、施設のニーズと外国人のスキル・意向を照らし合わせて選ぶ
- 専門家(行政書士・外国人採用支援会社)に相談してリスク評価
- 採用準備
- 募集要項の翻訳や外国人向け広報
- 面接時の日本語・文化理解チェック
- ビザ申請サポート体制構築
- 就業サポート
- OJT・メンター制度の設計
- 日本語研修(社内、外部スクール)
- 安定した労働条件の提示
- 定着支援・キャリアパス
- 定期評価と昇給・昇格制度
- 資格取得支援(例:介護福祉士)
- 異文化チームビルディングとハラスメント対策
- フォローアップと改善
- 在留資格の更新フォロー
- 定期面談やアンケートで課題を把握
- 法令改定(例:特定技能制度の変化)への対応
Q&A(よくある質問)
Q1:特定技能から「介護」ビザに移行できますか?
A1: はい、特定技能「介護」から在留資格「介護」への移行は可能です。実際に、定着率を上げるために移行支援を行っている施設もあります。
移行には介護福祉士資格などが関わるため、キャリアパスを見据えた支援が重要です。
Q2:技人国ビザで採用した場合、単純介護作業だけを担当させてもいいですか?
A2: 原則として慎重になるべきです。技人国(技術・人文知識・国際業務)ビザは、「専門的知識・技能」を要する業務が求められます。単純作業のみを担当させると、在留資格の趣旨と合致しないと判断される可能性があります。 適切な職務設計が必要です。
まとめ
- 介護施設が外国人を雇用するには、ビザ(在留資格)選定が最も重要なステップ。
- 特定技能、介護、技人国など、それぞれ特徴が異なり、施設の目的や業務内容に応じて適切な資格を選ぶ必要がある。
- 採用後は、日本語支援、OJT、メンター制度、キャリアパス設計など、現場運営・定着支援がカギ。
- 在留資格管理、就業規則整備、定期報告、安全管理など、コンプライアンス対応も不可欠。
- 補助金や支援制度を活用することで、コストを抑えつつ定着を促進できる。
関連記事
- 外国人介護福祉士の就労ビザならこれ!
- 介護分野で取得できる就労ビザまとめ|必要要件と注意点
- 外国人の転職と在留期間|短くなるケース・長くなるケースを徹底解説
- 【完全ガイド】外国人ITエンジニアを採用する企業が知っておくべき在留資格の基礎
- 飲食業経営者向け|外国人を雇用するためのビザ手続きと注意点【完全ガイド】
参考リンク
無料相談
| まずは、無料相談に、お気軽にお申込み下さい。ご相談の申し込みは、「お問い合わせページ」から承っております。なお、無料相談は事前予約制とさせて頂いています。 |
![]() 「記事監修」 加納行政書士事務所 運営HP:ビザ申請サポートNavi https://visasupportnavi.net/ 代表 特定行政書士 加納 裕之 「学歴」 同志社大学大学院法学研究科公法学専攻博士前期課程修了(修士(法学)) 明治大学法科大学院修了 「資格」 行政書士(特定付記)、TOEIC805点 「専門分野」 入管取次・ビザ申請、在留資格、永住・帰化、外国人問題、国際公法 |

