赤字決算でも「経営・管理」ビザは更新できる!審査のポイントと実務対応策
目次
はじめに
日本で外国人が事業を行うための在留資格「経営・管理」は、更新時にも「事業の実体」「継続性」「安定性」が重視されます。出入国在留管理庁(以下「入管庁」)が示すガイドラインでも、たとえ赤字であっても即更新不可とはならない旨が明記されています。
にもかかわらず、多くの経営者・外国人企業家が「赤字=更新できないのではないか」と不安を抱えています。そこで本稿では、赤字決算のケースを整理し、更新を成功させるためのポイントや必要書類、実務上の注意点を体系的に解説します。
1.「経営・管理」ビザ更新の基礎知識
(1)在留資格「経営・管理」の趣旨
在留資格「経営・管理」は、外国人が日本国内で事業を起こし、または既存の事業の経営や管理に従事する活動に対して付与されるものです。
更新時も、新規取得時と同じく、次のような点が審査の焦点となります。
- 事業の実体(オフィス、従業員、設備、取引先など)
- 事業の継続性・安定性(継続して経営・管理活動ができるか)
- 適法な納税・社会保険等の法令遵守状況
(2)更新時の審査ポイント
特に更新申請時には、次のような視点が重要です。
- 初回取得時に比べて「実績」が問われる。設立後1〜2年経過していれば、決算数字、売上、利益、雇用状況などが評価対象に。
- 「事業を継続する見込み」が合理的に説明できているか。赤字だとしても、改善計画や資金繰り、受注実績等の裏付け資料があれば許可される余地あり。
- 納税・社会保険料の滞納などがあると、事業の「適法運営・誠実性」を疑われる。赤字自体よりも、法令違反・納付遅延の方がリスクが高いとされています。
(3)参考となる法務省資料
入管庁が発表する「外国人経営者の在留資格基準の明確化について」等の資料には、事業の継続性の判断基準が記載されています。
たとえば、「設立後間もない会社で赤字が出たとしても、債務超過でなければ直ちに更新を否定するものではない」との記載があります。
2.赤字決算が及ぼす影響と審査上の留意点
(1)赤字=即・不許可ではない
「赤字=更新不可」と誤解されがちですが、実務上は「赤字でも更新可能なケース」が多数報告されています。たとえば、創業初期で投資・準備フェーズにあり、事業拡大の初動として赤字が出ていると判断される場合などです。
具体的には、赤字であっても以下の条件が整っていれば更新の可能性があります。
- 債務超過(資本金を下回る負債の状態)ではない。
- 直近期末の貸借対照表上、剰余金がある、あるいは欠損金があるが債務超過に至っていない。
- 今後の回復見込みが合理的に説明できる。今年度・来年度に黒字化に向けた計画・資金調達・売上実績がある。
(2)赤字がマイナス評価される典型ケース
逆に、以下のような状況では更新許可が厳しくなります。
- 2期連続で赤字かつ債務超過の状態。事業の継続可能性に疑義となるため。
- 納税・社会保険料の滞納、適法運営に疑義がある。赤字以上に“法令遵守”の欠如がマイナス評価となります。
- 事業実体が乏しく、「バーチャルオフィスのみ」「従業員・取引先が実質ゼロ」などの状況。審査官が“実質なし”と判断する可能性あり。
(3)審査官が重視する「事業の継続性・安定性」
入管庁の資料では「当該事業活動が“確実に”行われることが見込まれる」ことを求めています。
つまり、赤字であっても「継続する見込み」が合理的に立証できるかが鍵です。審査時には次のような視点でチェックされます。
- 今後の売上・収益・経常利益改善の根拠(契約書、受注済み案件、顧客構成など)
- 資金繰り・運転資金の確保(銀行借入、増資、補助金・助成金など)
- 従業員・取引先・オフィス・設備等の維持又は拡充状況
- 適法な納税・社会保険料の納付状況
- 債務超過や累積欠損の有無、将来の負債返済計画
3.赤字決算でも更新を目指すための実務対応策
(1)赤字理由と改善計画の明確化
赤字になった理由を明確に整理し、それへの対応策を数値とスケジュールで示した「改善計画書」を作成することが有効です。
改善計画書のポイントは以下の通りです。
- 赤字原因の特定(例:初期投資がかさんだ、販促費が先行した、取引先別に売上が確定しなかった、原価が上昇した等)
- 改善策・実行項目(例:新規販売チャネルの開拓、コスト見直し、価格転嫁、従業員の配置見直し)
- 数値目標(売上・粗利・経常利益・改善率等)と達成時期(来期・再来期)
- 資金繰り計画・運転資金確保の裏付け(借入、増資、補助金、受注前払金など)
- 実績裏付け資料(契約書、受注証明、銀行取引明細、見込み売上リストなど)
(2)必要書類の追加準備(赤字時)
通常の更新申請書類に加え、赤字の場合には以下のような補足資料を用意することが推奨されます。
- 直近2期分の決算書(損益計算書・貸借対照表)
- 納税証明書・社会保険料納付証明書(適法性の証明)
- 事業改善計画書・将来収支予測
- 第三者(例:中小企業診断士、公認会計士)評価書(特に累積欠損・債務超過等のリスクがある場合)
- オフィス借用契約書・従業員名簿・取引先リスト・取引実績・売上見込み資料など、事業実体を示す書類
(3)債務超過回避・増資対応
特に注意すべきは、債務超過状態です。債務超過とは「負債の合計が資産を超過している」状態で、同在留資格更新においては重大なマイナス要因となります。
したがって、次のような対応が望ましいです。
- 可能であれば増資を行い、資本金を実質改善する
- 繰越欠損を超える払込資本金の増加、あるいは軽負債化・返済計画の明示
- 負債の内容を整理し、返済スケジュールを作成し、改善見込みを明記
(4)納税・社会保険料の適法履行
赤字だからといって納税・社会保険料を滞納してよいわけではありません。むしろ、赤字であっても適切に納税・社会保険料を履行していることが「誠実な事業運営」の証明になり、審査において評価されます。
- 源泉所得税・消費税・法人税・住民税・事業税などの滞納がないか
- 社会保険(厚生年金・健康保険・雇用保険など)の加入・納付状況
これらに不備があれば、赤字以上に「適法運営に疑義あり」と判断され、更新不許可のリスクが高まります。
(5)開業初年度・成長段階にある場合の配慮
設立1年目・立ち上げ初期の段階では、赤字となるのは経営実務としてよくあることとされています。入管庁の資料でも「設立後間もない段階であれば、赤字でも継続性を認める余地あり」とされています。
このようなケースでは、以下のような対応が有効です。
- 起業から現在に至るまでの活動実績(準備、設備投資、契約交渉、受注確保など)を整理
- 今後の売上拡大・黒字化見込みを合理的に説明
- 初期投資や販促費等で赤字となっている旨、かつそれが合理的なものであることを説明
4.赤字でも更新を許可されたケース・許可されにくいケース
(1)赤字でも許可された典型例
以下のような事例では、赤字決算であっても更新が認められています。
- 投資先行型:設備導入・開業準備期間中に赤字となっていたが、売上受注確定、契約書保有、次期黒字化の見込みを資料で示せた。
- 単期赤字:初年度に赤字が出たものの、貸借対照表上剰余金あり、債務超過なし。改善計画を提出し、次期改善可能性を示せた。
(2)許可されにくい典型例
逆に、次のようなケースでは厳しくなります。
- 2期連続の赤字かつ債務超過:事業の継続可能性が疑われるため、更新不可になる可能性が高い。
- 納税・社会保険料に滞納あり、適法運営に関して疑義がある。赤字という経営の問題以外に「法令順守」の欠如があると判断されると、審査が厳しくなります。
- 事業実体が乏しい:オフィス・従業員・取引先がほとんどなく、形だけの会社と見なされたケース。これも更新ではマイナス要因。
5.更新申請における手続き・書類(赤字決算時の留意点含む)
(1)基本的な提出書類
更新申請時に通常必要となる書類は次の通りです。
- 在留期間更新許可申請書
- 写真(縦4 cm×横3 cm)
- パスポートおよび在留カード(提示)
- 決算書・税務申告書類
- 事業の内容説明・従業員名簿・オフィス賃貸契約等、事業実体を示す書類
(2)赤字決算時に追加準備すべき書類
赤字決算がある場合、以下のような付加書類を用意しましょう。
- 直近2期分の決算書(損益・貸借)
- 事業改善計画書・収支予測書(数値目標・実行スケジュール付)
- 契約書・受注証明・顧客リスト等売上見込みの裏付け資料
- 納税証明書・社会保険料納付証明書(適法運営の証明)
- 第三者評価書(中小企業診断士・公認会計士等による)…特に累積欠損・債務超過がある場合。
(3)提出時期・在留期間の選び方
更新申請は、現在の在留期限の3ヶ月前から可能です。早めの準備がおすすめです。
また、更新後の在留期間は、実績・継続性・安定性などを総合判断して1年・3年・5年などが付与されることがあります。継続実績が良好であれば長期在留も可能です。
(4)専門家の活用と準備のコツ
更新申請では、書類形式だけでなく「中身」が審査されます。実務上、以下の点が重要です。
- 書類作成を行政書士・税理士・中小企業診断士等の専門家と協力することで、説得力ある資料を作成。
- 決算時には、ビザ更新の可能性を見据えて、税理士に「経営・管理ビザ更新の観点」を事前共有することが望ましい。
- 申請時点までに売上・取引先・資金繰りの状況を整え、根拠資料をできるだけ揃えておく。
- 申請直前の決算が赤字でも、「改善状況&計画が合理的」であれば更新の余地あり。あきらめずに準備を。
6.実践チェックリスト
以下のチェックリストを用いて、ご自身の状況を整理・準備してください。
| 項目 | チェック |
|---|---|
| 直近期末で資産>負債(債務超過でない)か? | □ |
| 納税証明書・社会保険料納付証明書は最新か? | □ |
| 赤字原因を明確に整理しているか? | □ |
| 今後の売上・収益改善計画を数値・スケジュールとともに示せるか? | □ |
| 売上見込み・契約書・受注実績などの裏付け資料があるか? | □ |
| オフィス・従業員・取引先などの実体を証明できるか? | □ |
| 申請書類を専門家とともにチェックしたか? | □ |
7.Q&A よくある質問
Q1:赤字だから更新できないのでしょうか?
A1:いいえ。赤字=即時不許可ではありません。赤字であっても、債務超過に至っておらず、事業の継続・改善見込みを合理的に説明できるなら更新許可されるケースがあります。
Q2:何期連続の赤字だと危険ですか?
A2:具体的な「何期」という明文化された数字はありませんが、実務上「2期連続&債務超過」の状況は、事業継続性に疑義を持たれやすく、更新が厳しくなる典型例とされています。
Q3:債務超過とは何を意味しますか?
A3:簡単に言えば「負債の合計が資産の合計を上回っている状態」です。貸借対照表上で「純資産」がマイナスとなっていると債務超過となります。債務超過のまま放置していると、更新審査でマイナス評価につながります。
Q4:赤字の理由が「販促費先行」「設備投資先行」などの場合、更新可能性は高くなりますか?
A4:はい。実務上、初期投資や設備投資・販促費の先行による赤字であって、かつ「売上拡大・改善見込あり」の説明が裏付け資料付きでできる場合には、更新許可を得たケースがあります。
Q5:納税・社会保険料を滞納しているとどうなりますか?
A5:納税や社会保険料の滞納がある場合、事業の適法運営・誠実性に疑義が生じ、赤字以上に更新拒否のリスクが高まります。赤字だからといって法律遵守を怠ってもよいわけではありません。
Q6:更新申請はいつまでに行えばよいですか?
A6:現在の在留期限の3か月前から申請可能です。早めに必要書類を整え、準備を進めることをおすすめします。
8.まとめ:赤字でも更新成功へ向けて
- 在留資格「経営・管理」の更新において、赤字決算だからといって自動的に更新不可になるわけではありません。
- ただし、赤字が「ただの赤字」で終わると、事業の継続性・安定性に疑義を持たれ、更新拒否のリスクが確実に高まります。
- 更新申請時には、「赤字の原因」「今後の改善見込」「資金繰り計画」「適法運営の実績(納税・保険料支払い)」を具体的・数値的に説明できることが鍵です。
- 債務超過となっていないか、増資や改善策が講じられているかも非常に重要なポイントです。
- 提出書類は、単に形式を揃えるだけでなく、審査官に対して「この会社は継続して経営できる」と納得してもらえる内容である必要があります。
- 専門家(行政書士・税理士・中小企業診断士など)と連携して、早めに準備を進めましょう。
以上を踏まて、現在「赤字だから更新できるか?」で悩んでいる方も、あきらめずに準備を整えることで、更新成功の可能性は十分にあります。
もし具体的な決算書の状況・改善計画書の雛形・事業内容等があれば、さらに詳細に「更新可否の見込み」と「改善すべき点」をご案内できますので、ご希望でしたらお知らせください。
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![]() 「記事監修」 加納行政書士事務所 運営HP:ビザ申請サポートNavi https://visasupportnavi.net/ 代表 特定行政書士 加納 裕之 「学歴」 同志社大学大学院法学研究科公法学専攻博士前期課程修了(修士(法学)) 明治大学法科大学院修了 「資格」 行政書士(特定付記)、TOEIC805点 「専門分野」 入管取次・ビザ申請、在留資格、永住・帰化、外国人問題、国際公法 |

