1,帰化許可要件は何ですか?

 帰化申請の不許可事例を検討するにあたり、まずは帰化許可要件について検討していきます。帰化許可要件は、国籍法第5条に定められています。原則としては、外国人が日本国籍を取得するためには、以下の要件を充足している必要があります。逆説的に、この帰化許可要件を充足できなかった場合は、不許可になります。

「帰化要件」

①住所要件
 引き続き5年以上日本に住所を有し5年のうち3年以上就労経験があることが要求されています。
②能力要件
 18歳以上であって、能力の準拠法である本国法上も成人に達していることが要求されています。
③素行要件
 素行が善良であることが要求されています。いかなる者を素行善良とみるかについては、社会通念によって判断されます。
④生計要件
 自己または生計を共にする配偶者やその他の親族の資産や収入によって生計を営めることができることが要求されています。
⑤重国籍防止要件
 重国籍防止要件とは、帰化しようとするものが国籍を有せず、又は日本国籍取得によって現国籍を失うべきこととすることが要求されています。
⑥思想要件
 日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを企て、若しくは主張し、又はこれを企て、若しくは主張する政党その他の団体を結成し、若しくはこれに加入したことがないことが要求されています。
⑦日本語能力要件
 基本的な日本語能力が要求されます。日本の小学校3年生レベル程度の日本語能力が必要です。

2,帰化申請はどんな場合に不許可になりますか?

(1)安定した収入がない場合

 上記1④にあるように、帰化許可要件の1つとして国籍法は生計要件を定めています。申請人に安定した収入があるか否かは、この生計要件に関わる問題となります。

 生計要件では、日本で生活するための生計を維持できる経済力があることが要求されます。この生計要件は同居の家族を含めて生計を共にする世帯を基準に判断されます。帰化申請人本人の年収が低く生計を維持することが困難であっても、帰化申請人と同居している家族(配偶者や成人した子供)に生計を維持するに十分な収入がある場合、生計要件を満たすことが可能です。つまり、世帯として生計を維持することができれば生計要件を充足します。

 貯金額が多い場合でも、安定した収入がない場合、生計要件を満たすことは難しいです。生計要件の判断に当たっては、貯金の有無ではなく安定収入の有無によって審査されます。借入金がある場合、返済計画を立案し、借入金を返済しうるだけの収入を得ているか否かが重要となります。返済計画に沿って返済しているのであれば消極的に作用することはないと考えます。

 生計要件を充足する収入の基準としては、手取りで18万円以上の安定した収入を得ているのであれば、要件を充足すると思います。扶養者がいる場合、世帯年収が問題となりますので、更にプラスαの収入が必要となります。世帯での生計を維持できるか否かが問題となります。

 安定した収入がない場合は、この生計要件を満たしていないとして不許可となります。

(2)「引き続き」5年以上日本に在留していない場合

 上記1①にあるように、帰化許可要件の1つとして国籍法は住所要件を定めています。引き続き5年以上日本に住んでいない場合は、この住所要件を満たしていないとして、帰化申請は不許可になってしまいます。

 この「引き続き」と認められるためには、継続して日本に在留し生活していることが必要となります。よって、長期出国や出国回数が多いため出国日数が多い場合は、「引き続き」日本に住所を有しているとは認められず、帰化申請は不許可になってしまいます。なお、この場合は住所要件5年の計算は、長期出国の時点から計算し直しとなります。

出国日数が多いため「引き続き」とは認められない例

・1回の出国で連続して3か月以上日本を離れ外国にいた場合は、引き続きの要件が認められなくなる可能性が高くなります。この場合、カウントはリセットされ始めからとなります。
 里帰り出産や本国の親族の看病その他長期海外出張などで、1回の出国で連続して3か月以上出国している場合、住居要件が充足されないとして、帰化が認められなくなる可能性が高くなります。
・1回の出国が連続して3か月未満の場合でも、1年間で通算して100日以上出国している場合「引き続き」の要件を満たさないと判断される可能性が高くなります。例えば、ひと月毎に日本の生活と海外の生活を往復していた場合、連続して3か月以上出国していた場合ではありませんが、100日以上出国していますので「引き続き」の要件を充足しません。

(3)帰化申請中に交通違反をした場合

 上記1③にあるように、帰化許可要件の1つとして国籍法は素行要件を定めています。交通違反の有無は、この素行要件に関わる問題となります。

 素行善良であるか否かは、犯罪歴の有無や犯罪態様、納税状況、社会への迷惑の有無等を総合的に考慮し、一般通常人を基準として社会通念に従って判断されます。そして、素行善良と認められるためには、犯罪歴が無いことはもちろんのこと、交通違反の有無も考慮されます。

 帰化申請前、直近5年間の交通違反の有無について審査されます。素行要件に抵触する基準としては、過去5年間に5回以上の交通違反があった場合、素行善良であるとは認められなくなる可能性が高くなります。この5回の交通違反とは軽微な交通違反です。駐車違反や右折禁止などです。飲酒運転などの重大な交通違反の場合は、1回でアウトです。重大な交通違反の場合、相当期間経過しないと許可となる可能性はないと考えます。

(4)帰化申請中に転職や退職した場合

 帰化申請中に転職したり、仕事を辞めたりすることは、上記1④の生計要件に関わる問題となります。転職や退職した場合は、安定した生活を送ることが見込まれるか、という観点から消極的に作用する可能性があります。

 帰化申請の審査期間は、申請が受理されてから約1年程度の時間を要します。申請の準備も含めれば、帰化するまでは1年以上の時間がかかります。この間に、帰化申請中は転職してはいけない、という決まりはありません。もっとも、帰化申請中は申請時点から事情の変更が生じる行動は避けることが望ましいと考えます。申請時点では、帰化の許可要件を満たしていても、事情の変更によって許可要件を充足できなくなる危険性もあります。

 なお、帰化申請が受理される際には、転職や会社を起業する予定があるか、と法務局に必ず聞かれます。予定がないと答えた場合は、帰化申請の結果が出るまで、転職や起業は控えることが望ましいと考えます。

(5)提出書類に内容虚偽があった場合

 提出書類に内容虚偽があった場合は、虚偽申請として当然に不許可になります。申請内容の真偽については、徹底的に調査され審査されます。帰化申請の審査期間が1年近くにも及ぶことから、審査が非常に厳格であることは想像に及ぶと思います。虚偽申請をした場合は、不許可になることは当然として、その後の申請にも不利益に働きます。

「記事監修」
加納行政書士事務所
運営HP:ビザ申請サポートNavi https://visasupportnavi.net/  

代表
特定行政書士 加納 裕之  
「学歴」
 同志社大学大学院法学研究科公法学専攻博士前期課程修了(修士(法学))
 明治大学法科大学院修了
「資格」
 行政書士(特定付記)、TOEIC805点
「専門分野」
 入管取次・ビザ申請、在留資格、永住・帰化、外国人問題、国際公法